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社説・コラム

社説 中間貯蔵施設 その場しのぎでは困る

 苦渋の決断だろう。

 福島県が、原発事故に伴う除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設について、地元の大熊町と双葉町にまたがる土地で受け入れる方針を決めた。

 被災地では、廃棄物を入れた大量の袋の持って行き場がなく、民家の敷地などで野ざらしになっている地点が5万カ所もあるという。袋が劣化して中身が漏れ出すケースもあり、除染作業に遅れも出ている。

 「復興のためには不可欠な施設だが、受け入れると古里が長く奪われる」―。地権者の胸の内はいかばかりであろう。用地を売るかどうか、今後迫られる。住民の苦悩を政府はしっかりくみ取らねばならない。

 中間貯蔵施設では、放射性物質が付いた土やがれきを専用のドラム缶に入れ、最長で30年間保管する。政府は昨年12月、福島第1原発周辺の土地約16平方キロを国有化し、施設を造る計画を公表した。しかし事前説明が十分でないと地元自治体が反発し、調整は難航していた。

 事態をさらに複雑にしたのは「最後は金目でしょ」という石原伸晃環境相の発言である。地権者をはじめ、地域を冒涜する暴言と受け止められた。住民の不信と怒りがピークに達したのは想像に難くない。

 国は結局、最終処分場の県外設置を法制化すると約束。用地買収のほか、地権者の希望があれば所有権を残したまま賃貸借も認める方針を示すなど、地元の要求を次々とのんだ。両町や県などに拠出する交付金も、30年間で3010億円と当初の3倍に引き上げた。

 内閣改造や福島県知事選を控え、政治的思惑が働いたに違いない。早期に決着しなければ住民感情がこじれ、さらに事態が進まなくなる恐れもあった。

 佐藤雄平知事はあすにも、石原環境相らと会談する。法制化を約束した県外最終処分については、確実に実行するよう念押しするという。

 地権者たちにとって最大の不安は、ずるずると実質の「最終処分場」にされてしまうことにほかならない。国がいくら法制化を約束しても、なお念押しするのは国に対する不信感がそれだけ根強い表れであろう。

 実際、最終処分場の見通しは何も開けていない。その場しのぎで中間貯蔵施設の建設を急ぐようなことがあれば、ひいては国民からの信頼が地に落ちることを国は肝に銘じてほしい。

 地権者は約2千人に達し、用地買収には困難が予想される。廃棄物の輸送には1日2千台もの大型トラックが必要で、沿道の住民に被曝(ひばく)の不安が高まる恐れもあろう。こうした対応にも気を配ってもらいたい。

 それ以上に望まれるのは、最終処分場を県外に建設する道筋を一日も早く示し、2町に除染後のより具体的な復興ビジョンを示すことである。

 復興庁は先日、それに当たる「大熊・双葉ふるさと復興構想」をまとめた。しかし、「検討の必要がある」式の精神論にとどまっており、住民が元の地域に帰還しやすい環境づくりは見えてこない。

 被災地の苦悩は深く、なお続く。政府にいま問われているのは、現地の人々が置かれている苦境に向き合う姿勢であり、その将来にとことん責任を果たす実行力である。

(2014年8月31日朝刊掲載)

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