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サダコの祈りアフガンに届け ユニタール広島のシャムスさん 母国で絵本配布へ

 アフガニスタン人で国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所職員のシャムスル・ハディ・シャムスさん(30)=東広島市=が約1カ月間の夏休みを利用して母国を巡り、原爆の子の像のモデルになった佐々木禎子さんを題材にした絵本を配り歩く計画を進めている。母のように慕う知り合いの被爆者の体験記も添える。(山本祐司)

 絵本の題名は「サダコの祈り」。主人公の子どもたちが鳥の背に乗ってタイムスリップしながら、被爆直後の広島の惨状や、なおも核兵器が広がる世界を目の当たりにするストーリー。白血病と闘う禎子さんの姿や、禎子さんの死後、同級生らが尽力した像の建立運動も紹介している。

 広島を訪れ、禎子さんに強い思いを寄せたパキスタン人の絵本作家が約10年前に執筆。NPO法人のANT―Hiroshima(広島市中区)が英語や、主にパキスタンで使われるウルドゥー語、アフガニスタンの公用語であるパシュトゥー語とダリー語版に翻訳し、核兵器保有国や紛争地域に送ってきた。

 「この絵本なら、紛争で疲弊した母国の市民に平和のメッセージが伝わるはず」。そう考えたシャムスさんは今回、このパシュトゥー語版とダリー語版を自ら改訂。絵本の巻末に、親交のある被爆者森井孝子さん(78)=廿日市市=の体験記を掲載した。

 小学4年生だったあの日、真っ黒な雨を浴びた。衣料品店を営み懸命に働いていた48歳の時の乳がん宣告。夫に先立たれた悲しみを乗り越え、国内外へのボランティア活動に励んでいる近況―。「つらく苦しい思いをする人が出ないよう、平和な世界でありますように」との森井さんのメッセージを添える。

 改訂版の制作費約60万円はANTが負担。2千部を現地で印刷する。8月末に日本を離れ、準備が整い次第、家族や友人の協力を得ながら小学校などを回る。教師らに原爆被害の実態について説明する機会を設け、読み聞かせに活用してもらう考えだ。

 アフガニスタンは1979年の旧ソ連の侵攻以降、常に紛争にあえいできた。広島大に留学し、平和研究で博士号を取得したシャムスさんは「若い世代は、平和がどんな状態かも知らず、教育の機会も限られている。市民の力で復興した広島や、被爆後を生き抜いてきた女性の姿を、子どもや、紛争で夫を失った女性たちに知ってもらいたい」と話している。

アフガニスタン情勢
 度重なる内戦や紛争に見舞われ、多くの国民が犠牲となっている。1978年の軍事クーデターに続き、隣国のソ連(当時)が軍事侵攻。89年にソ連軍が撤退した後も、「ムジャヒディン(イスラム戦士)」同士の内戦が続いた。96年にイスラム武装集団タリバンが首都を制圧し、政権を樹立。タリバンが保護していた国際テロ組織アルカイダが2001年に米中枢同時テロを実行したのを機に、米軍などの軍事侵攻を受けた。タリバン政権が崩壊し、オバマ大統領は16年末までの米軍の完全撤退を発表しているが、予断を許さない状況だ。

(2014年9月1日朝刊掲載)

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