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社説・コラム

天風録 「ブッダは核を嗤う」

 同じ「わらう」でも、「笑う」とは幾分違う。昭和の初め、信濃毎日新聞主筆の桐生悠々が「関東防空大演習を嗤(わら)ふ」と時代遅れの軍部を皮肉った。怒りを買い職を失うが、寸鉄人を刺す先人である▲新見市生まれの僧、佐々井秀嶺(しゅうれい)さんは16年前、インドが地下核実験を行うや首都デリーに乗り込む。「首相よ、ブッダが嗤っているぞ」と論難した。被爆国民の怒りを聞け、と叫ぶと武装警官も制止しなかったという▲インド仏教再興のカリスマである。単身海を渡り半世紀近い。先年、44年ぶりに一時帰国して旅僧の姿で行脚。広島では原爆ドームを望むお寺で「仏教は人間解放のためにあるぞ」と渋い声を聞かせた▲ことし春、くだんの核実験の時と同じ政党が政権に返り咲く。モディ首相は核政策を見直す選挙公約を掲げていた。そこへ日本からの原子力技術供与の話だ。「平和」と「軍事」が、かの国では紙一重にもかかわらず▲来日しているモディ氏への安倍晋三首相の気遣いは破格といえよう。一方、佐々井さんは最近死線をさまよう大病をしたが、奇跡的に回復しているという。元気になれば、「お二人の首相よ」という渋い声が聞こえてくるような気がする。

(2014年9月3日朝刊掲載)

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