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海自呉地方隊60年 第5部 基地と地域 <3> 国策への異議 進む増強 自衛官気遣う

 「隊員のみなさんも反対してください」。集団的自衛権の行使容認が閣議決定された7月1日、海上自衛隊の潜水艦桟橋(呉市昭和町)に拡声器の声が響いた。

 市民団体ピースリンク広島・呉・岩国の海上デモ。「隊員憎しでやっているわけではない」と呉世話人の西岡由紀夫さん(59)は説明する。反基地運動ではない。呉基地の増強や相次ぐ海外派遣といった「専守防衛を逸脱した」現状への抗議という。危険を伴う任務に当たる隊員や家族のことも案じる。

 ただ防衛は国策だ。隊員に向かって声高に叫んでも限界はある。現実に西岡さんたちの願いとは裏腹に、呉基地の増強は進む。

 2011年、海自最大級の護衛艦いせ(1万3950トン)が配備された。本年度中に桟橋Fバースが、それまでの倍近い420メートルになる。

海上デモは150回

 海外派遣も1991年のペルシャ湾での機雷掃海以降、常態化している。89年に設立したピースリンクの海上デモの回数は、25年間で約150回に上る。

 労組系の団体でつくる「非核の呉港を求める会」も90年の結成以降、平和や護憲を訴えてきた。ことし1月、大竹市沖で起きた海自輸送艦おおすみと釣り船の衝突事故では、呉地方総監部に安全教育の徹底を申し入れた。

 結成してほぼ四半世紀、会は高齢化やメンバー固定化といった課題を抱える。30団体800人で始めたが、現在は15団体300人。事務局長の桝井芳郎さん(72)は「結成時に若かったメンバーがそのまま年を取り、いまも続けている」と嘆く。

人員や資金課題

 海自隊創設60周年のことし、ピースリンクは呉での活動に本腰を入れることにした。「オスプレイ配備や原発問題などに力を注いでいた」と新田秀樹世話人(51)。ここ数年は基地を抱える呉での活動がおろそかになっていたという反省がある。

 自衛官向けの電話相談窓口開設も検討していく。人員や資金面で課題は多いが「任務が広がる中、隊員や家族に不安はあるはず」。表に出にくい声を拾い、説得力のある主張を政治家や行政、市民に訴えていく考えだ。

 官民、市民が自衛隊を支えている呉の町。運動は反基地になりにくいし、市民団体も基地そのものを否定しているわけではない。問うているのは基地の機能、国のありようだ。(小島正和)

(2014年9月4日朝刊掲載)

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