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社説・コラム

社説 内閣改造 政策面でも心機一転を

 発足から1年8カ月余り。1人の閣僚も交代せず、近年では異例の長命だった第2次安倍内閣がきのう改造された。

 女性閣僚は過去最多と並ぶ5人を数え、初入閣は男女合わせて8人いる。その割に全体としては、新味に欠ける印象が否めない。安倍晋三首相が主要閣僚を留任させたためだ。政策の継続性を重んじたといえよう。

 一方の自民党執行部人事で首相は、確執がささやかれた石破茂氏の後任幹事長に、前総裁の谷垣禎一氏を充てた。挙党態勢により長期政権への布石を打ったとの受け止めが広がる。

 ただ特定秘密保護法の成立、集団的自衛権の行使容認をはじめ、これまでの安倍政権のスタンスは性急さが際立つ。国民の異論、批判が少なくないことを忘れてもらっては困る。

 もとより政権の最重要課題は日本経済の再生であるはずだ。こちらも公共事業への過度の偏重などアベノミクスがもたらすひずみが露呈し、神通力の陰りも指摘される。まずは政策の洗い直しから始めるべきだ。

 「担当相」の多さが目立つのも今回の特徴だ。ただ改造前にも増して、特命や担当を乱発しすぎではないか。

 例えば女性活躍や地方創生の担当相と言われても、何を今更と思ってしまう。男女共同参画社会や国土の均衡ある発展に既存の政策が機能し切れていないことの裏返しにほかならない。

 その意味で担当相は、省庁横断的に、斬新な政策を実行できるかが問われる。官僚が陥りがちな縦割りを排する調整力も求められる。

 地方創生担当相に任じられた石破氏も、当然そこは自覚しているだろう。急激な少子高齢化が続く地方では、自治体消滅の危機さえ叫ばれている。首相と確執を続ける余裕がないことも互いに分かっていよう。

 留任した岸田文雄外相は、中国や韓国との関係再構築に全力で当たってほしい。かじ取りが難しいことは言うまでもないが、だからこそ平和外交の原点に立ち戻ってはどうか。

 被爆70年の来年は5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議がある。被爆国として核兵器廃絶に本腰を入れる姿勢を貫くことで、中国の行き過ぎた軍拡を戒める説得力が増す。北朝鮮に核・ミサイル開発の放棄を迫るため韓国と共同歩調を取ることで、関係改善の契機とする考え方もある。

 ほかにも改造内閣にとっての懸案は山ほどある。きのう記者会見した首相が「日本を取り戻す闘いの第2章が始まる」と強調していたのも、難問の多さゆえに違いない。とはいえ、力みすぎではとの印象を残した。

 集団的自衛権の行使を前提とした安全保障法制の整備や、環太平洋連携協定(TPP)の推進にしても、いたずらに前のめりとなっては禍根を残す。

 法人税の実効税率引き下げに象徴されるように、安倍政権の目指してきた方向は、ともすれば「弱者の切り捨てもやむを得ない」といった風潮を招いてきたとは言い過ぎだろうか。

 年末までに首相が判断することになる消費税率の再引き上げについても、国民生活や財政規律への細心の配慮が大前提となる。ここは安定政権におごることなく、国民の声に謙虚に耳を傾けてもらいたい。

(2014年9月4日朝刊掲載)

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