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社説・コラム

天風録 「イスラム国」

 中東やアフリカの地図を広げると、不自然さが一目で分かる。国境である。山や川といった自然の地形などお構いなしの直線が、あちこちで延びる。その大半が、かつて西欧の列強が権益を分け合った名残にほかならない▲人為の産物だとあざ笑うのも、やはり人間だ。シリアとイラクの国境を無視して「イスラム国」が勢力を広げてきた。そこをめがけ、これまた国境に何ら意味はないとばかりに、米国が爆撃機や無人機を飛ばしている▲米国人ジャーナリストをナイフで脅して殺害する。映像をネットに流す。1人さらに1人と。イスラム国のあまりの残忍さに、世界は言葉をのむしかないのか。どんな言い分があろうと、人の命を奪っていいわけはない▲「神の教えとは到底相いれない」。中東の宗教指導者たちも、過激派組織の非道ぶりには戸惑っているようだ。イスラムの名にとどまらず国家を名乗るのも、全くもって心外だ―。改名してもらいたいとの声が高まる▲民主国家建設というアラブの春は結局、見果てぬ夢に終わるのか。国境と同じく、欧米流の価値観の押しつけがそもそも間違いなのか。地図は描き直すことができる。ただ、奪われた命は戻らない。

(2014年9月6日朝刊掲載)

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