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社説・コラム

天風録 「「駅」の光景」

 「この辺りですね」とタクシーの運転手。郊外の国道沿いにパチンコ店やコンビニが並ぶ。どこにもある風景は13年後に一変するらしい。長野県飯田市で見たリニア中央新幹線の新駅予定地だ▲工費5兆円、南アルプスをぶち抜いて品川と名古屋を40分で結ぶJR東海の大事業の着工が迫る。ご多分に漏れず、人口減に悩む山あいの街に降ってわいたのが途中駅。立派に造って地域おこしをと役所の鼻息は荒い▲ただ半信半疑の住民も多いと聞いた。あっという間に上京できる便利さとともに失うものは何かと。工事による地下水や生き物への影響が指摘される。人と富を都会に吸い上げられる不安も拭えないのかもしれない▲1年前に目撃した光景をふと思う。岩手県はJR山田線の「駅」。大津波で駅舎や駅前のにぎわいが消え、ホームの残骸だけが…。この鉄路の復旧費はリニアの260分の1なのに誰がどう担うか綱引きがいまだ続く▲大震災の被災地は都会の「建設バブル」の余波で鉄道はおろか住宅再建すら遅れがちだ。国の成長戦略であるリニアに人手が吸い取られ、さらに割を食うことはないのか。3・11から、はや3年半。この落差は一体何なのだろう。

(2014年9月8日朝刊掲載)

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