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社説・コラム

社説 ウクライナ「停戦」 問われるロシアの姿勢

 ウクライナ東部の混迷が打開できるのか見えてこない。

 ウクライナ政府と親ロシア派が、即時停戦で合意した。しかし一部の地域では早くも散発的な戦闘が始まるなど、事態は再び不安定化しつつある。

 双方は、避難民の保護など人道的な見地から停戦の必要性をあらためて認識してほしい。国際社会も、恒久的な和平と地域安定の後押しを急ぎたい。

 今回の合意をめぐっては、その内容にも疑問符が付いている。即時停戦、武器の撤収、捕虜の交換のほか、東部2州の特定地域に「特別な地位」という大幅な自治権を付与すること―が柱である。

 しかし、そもそも東部に侵攻しているとされるロシア軍の撤退が盛り込まれていない。さらに親ロシア派が制圧地域に残ることも容認している。

 ウクライナ政権側はロシアの介入で急速に軍事的な苦境に立たされており、この内容をのまざるを得なかった可能性が高い。交渉がロシア側のペースで進んだことは明らかだ。

 今後、東部2州の「地位」をめぐる政治交渉が始まる。しかしこのままでは、ロシアは親ロシア派を通じてウクライナ政権側に圧力を強め、影響力を維持する恐れがある。連邦化など憲法改正要求を強め、東部の分離独立を目指す可能性もある。

 ウクライナの領土と主権をロシア側が尊重するかどうか。これが事態収拾の鍵に違いない。しかし停戦を急いだ結果、合意文書はあえて双方の対立点を棚上げにしたのだろう。これでは内容が不十分で、問題はいずれ再燃しかねない。

 ロシアはクリミア併合を一方的に宣言したままである。さらにマレーシア航空機を誰が撃墜したのかも真相究明は進んでいない。国際社会の監視の下、こうした問題の解決を同時に進める必要があろう。

 それにしても問われるべきは、ロシアの姿勢である。ウクライナ問題をめぐって、プーチン大統領はこれまでも、欧米が制裁を行えば停戦を支持して圧力をかわし、事態が沈静化すれば再び挑発を続けてきた。不誠実な対応のつけは必ずや、自らに跳ね返ってくる。

 国際社会は、ロシアへの包囲網をさらに強めなければなるまい。欧米諸国による金融やエネルギーの分野の追加制裁もやむを得まい。

 難しいのは、冷戦終結後としては最も危機的な情勢にどう相対すべきか、である。

 米国主導の軍事機構、北大西洋条約機構(NATO)は今回、ロシアを念頭に「緊急展開部隊」の創設を決め、有事の際の対応を確認した。仮に今後、停戦合意が破られ、再び戦闘が激化した場合、緊張が一気に高まる可能性は否めない。

 軍事挑発を続けるロシアを思いとどまらせなければ、という意見が台頭しつつあるのは確かだろう。

 一方で、力には力で応じる軍拡の時代にまた世界が戻ってしまっていいはずはない。不信と対立が渦巻く構図が生まれつつあるように思える。

 ロシア側からは、核大国であることを強調して欧米を威嚇するような発言も出ている。核軍縮や核拡散防止など「核なき世界」に向けた取り組みが、再び頓挫しないか懸念する。

(2014年9月9日朝刊掲載)

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