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社説・コラム

天風録 「「実録」の中の原爆」

 「詳しい年表」ができたと、ある識者が言う。宮内庁が公表した「昭和天皇実録」のことだが、言い得て妙である。首相動静のように、誰といつどこで、と詳細を極めている▲実録によると、あの日、広島の惨状は夜に入って一報が届く。「この種の兵器の使用により戦争継続はいよいよ不可能にして…」と受け止め、「なるべく速やかに」と、戦争の終結を沙汰するのは2日後のことだった▲きのうの本紙の詳報によると、話し言葉の要約は、この部分だけのようだ。あとは高官を「お召しになる」との記述であり、天子に申し上げるという意味の「奏上」を受けた内容だった▲この肉声は実録に収められている。30年を経て、中国放送の秋信利彦記者に原爆投下への受け止めを問われたときだ。広島市民に対しては気の毒であるが、やむを得ないことと思う―。訪米を終えて記者会見で答えた▲この頃から天皇にとって広島・長崎の原爆の日は「慎み」の日となったようだ。年表のようでいて、実録の端々には、世相に触れての複雑な心境がにじみ出るのだろうか。平和国家の民として読み取るべき歴史の教訓もまた、多いに違いない。丸暗記できる分量ではないのだが。

(2014年9月10日朝刊掲載)

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