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社説・コラム

社説 3・11と原発再稼働 「安全神話」に戻るのか

 きょうで東日本大震災から3年半。原発事故の脅威を日本人が肌で感じ、「安全神話」には二度と逆戻りしないと誓った日々は遠ざかりつつある。

 九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働申請に対し、きのう原子力規制委員会が「合格」を出した。昨年7月からの新規制基準を満たすという判断である。まだ手続きは残るが、新基準に基づく再稼働第1号として、この冬にも運転される可能性がある。

 世論調査のたび、浮き彫りになる再稼働に慎重な国民の思いとの落差は広がるばかりだ。議論を尽くしたのならまだいい。しかし審査の中身を見れば拙速だと言わざるを得ない。

 何より最大の弱点とも指摘される火山噴火への対策である。ことし7月の審査書案は「リスクは十分に小さい」とし、たとえ巨大噴火が起きても前兆の把握で対応は可能とする九電の言い分を認めた。

 これに対し、火山の専門家たちから疑問が続出した意味は重い。過去の例から十分な予測は困難とし、九電が想定する原子炉停止や核燃料取り出しも現実的ではないというものだ。

 パブリックコメントで寄せられて1万7千件を超す意見にも火山対策の不安が目立ったと聞く。これらを無視し、原案に沿う内容であっさり承認した規制委の姿勢はどうなのか。つまるところ結論ありきなのだろう。この流れのまま手続きが進むのなら禍根を残しかねない。

 次の焦点となる地元合意についても心配になってくる。鹿児島県や薩摩川内市は、再稼働に前向きである。それだけに肝心の事故時の避難の備えが整わないまま「見切り発車」される恐れがあるからだ。

 原発から30キロ圏の避難―。福島第1原発の事故から導かれた最低限の教訓だが、現時点では住民レベルの備えが整っているとは言い難い。特に入院患者ら「要援護者」の避難計画の遅れが目立つ。なのに県側から「当面は10キロ圏内で十分」との発言が飛び出すほどである。

 「想定外」を廃し、どんな過酷な事故にも備える。そうした大原則すら薄らいできたとすれば、ゆゆしきことだろう。

 政府は今週から県や市に職員を派遣している。避難計画の充実を後押しするためである。事故時の対応を地元に丸投げしてきたことへの反省もあるようだ。だが再稼働を急がせるあまり、実効性の伴わない計画に手を貸すことは許されまい。

 もし安全対策が甘いまま再稼働を認めれば、ほかの全国の原発に波及しよう。3・11の原点に今こそ立ち返るべきだ。

 内閣改造を終えた安倍政権の姿勢もあらためて問い直される。原発依存度の低減をうたいつつ、その道筋や将来の電源構成の議論を先送りしたまま再稼働ばかりに前のめりなのは、どう考えても矛盾していよう。

 懸案の「核のごみ」の問題も全くの未解決だ。その上、経済産業省からは電力会社を優遇する動きが浮上した。2016年の電力小売り全面自由化に伴い、重荷となる原発の発電コストを穴埋めする制度である。首をかしげざるを得ない。

 古里を追われ、今なお避難を続ける福島の12万7500人。その現実の前で「先祖返り」の政策をどう説明するのだろう。

(2014年9月11日朝刊掲載)

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