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社説・コラム

天風録 「スコッチと核と…」

 スコッチ好きは酒屋で迷うそうだ。さまざまなラベルに目移りして。蒸留所ごと、たるごとに味や香りは違い、ブレンドにも無限大の組み合わせがある。好みの一瓶との出合いが楽しみらしい▲18世紀初頭、産地のスコットランドは英国に統合された。高い酒税に音を上げた業者は山奥へ。蒸留したての原酒を売りさばくと目立つため、シェリー酒の空きだるに詰めて隠した。思わぬ熟成が、あの琥珀(こはく)色を生む▲それから3世紀余り。かの地で18日、英国からの完全独立を問う住民投票がある。賛否が相半ばする中、酒造業者の多くは独立に反対と聞く。スコッチを世界に売り込む後ろ盾として英国の外交力が必要という理由で▲独立の是非は現地の人が決める話だが、気がかりなことがもう一つ。英国が持つ核兵器の行方である。核ミサイルを載せた原子力潜水艦の基地はスコットランドにあり、独立派の指導者は「核は要らない」と明言する▲東西冷戦が終わり核攻撃の照準が定まらなくなっても、英海軍は24時間態勢で原潜を運航してきた。いくら己を隠しても、熟成とは呼べまい。全世界にとっても、要らないものは要らない。投票が廃絶の契機となるよう切に願う。

(2014年9月15日朝刊掲載)

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