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英記者 被爆証言を本に 2012年から聞き取り活動 「復興の力 母国で伝える」

 英国ロンドン在住のジャーナリスト、エリザベス・チャペルさん(41)が今月初めから約3週間の予定で広島市に滞在し、被爆者から体験の聞き取りを重ねている。被爆70年の節目となる来年、一冊にまとめて出版を目指す。(山本祐司)

 国内外で被爆体験を語ってきた英語通訳者の小倉桂子さん(77)=中区=らの協力を受け、被爆者との面会を続けている。この日は、海外に住む被爆者の支援に力を注ぐ豊永恵三郎さん(78)=安芸区=を約1時間半インタビューした。

 豊永さんは、建物疎開作業に駆り出されていて被爆した母と弟を捜して入市被爆した体験を語った。救済の手が届いていなかった韓国人被爆者の存在を知り、支援に奔走してきたことにも話が及んだ。「同じ被爆者。決して差別があってはならない」。豊永さんの訴えに、チャペルさんは何度もうなずいていた。

 チャペルさんは、ロンドンの専門書出版社の編集者などを経験。日本文学に詳しく、日本の旅行記も出版している。5年ほど前に広島を訪れた際、「被爆者の過酷な体験と、焼け野原から平和都市として立ち上がった被爆地のエネルギーを知った」。母国の英国でも伝えようと、2012年から研究者向けの助成金を受けて広島での聞き取り活動を始めた。今回で4回目。

 「原爆は全てを破壊し尽くす。どんなに復興しても、失われた文化や営み、人命は決して取り戻せない」。そんな被爆者の一言を重く受け止めている。知り合った被爆者を再訪すると、心にしまっていた思いを語り出すことがある。原爆に奪われたものを感じ取り、丹念に書き留めることを心掛ける。

 自国が核兵器を保有していながら、原爆被害をめぐる英国民の関心や知識が欠けていると痛感している。「核の問題が何かととっつきにくいのは事実。でも、被爆者の人生の物語には多くの人が共感できる」。出版する本を通して、被爆者の肉声を心に刻んでほしいと願う。

(2014年9月15日朝刊掲載)

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