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社説・コラム

社説 秘密保護法の運用 国民の不安 置き去りに

 国民から疑問や不安が寄せられた。しかし、政府が真摯(しんし)にくみ取ったとは思えない。

 国民の「知る権利」を後退させかねない特定秘密保護法をめぐり、政府は2万件を超えるパブリックコメント(意見公募)の結果を踏まえ、運用基準の素案を一部で修正した。

 とはいえ制度の根幹は何ら変わらない。政府の恣意(しい)的な運用を招くとして、法の廃止や抜本的な見直しを求めた意見は無視されたも同然の扱いとなった。

 政府は全体の賛否の比率さえ明らかにせず、国民の意見を軽んじていると批判されても仕方あるまい。これで法施行へのお墨付きと見なすようなら、大いなる見当違いではないか。

 政府が特定秘密を指定し、国民には何が指定されたのかを全く知らせない―。法について政府は7月に運用基準の素案を公表し、国民から意見を募った。1カ月で2万3820件も寄せられたという。

 これを受け、国民の知る権利については憲法21条を引き合いに「十分尊重されるべきだ」と明記することになった。だが、法運用の肝心の部分が手付かずのままでは評価できない。

 例えば、秘密の指定が過剰だったとしても国民には分からない。関与した公務員らが通報できる制度も十分に機能するかどうか、不安が拭えない。

 通報の窓口が、秘密を指定する省庁の内部に設けられるためだ。身内批判をする結果、その後の異動などで不利益を被るかもしれないと、通報者がためらうことは想像に難くない。

 この窓口が機能しない場合には、内閣府に審議官級ポストとして設けられる独立公文書管理監に通報できるが、これも仲間内に変わりはない。

 国民から寄せられた声の中には、窓口に民間人を登用するなどして通報しやすくしようという意見もあった。ところが政府は「専門性が必要」などと一蹴している。

 一方、運用基準には「法施行5年後に必要があれば見直す」とのくだりが加わる。裏を返せば、5年間は見直さないという宣言にほかなるまい。

 それでも政府からは「国民の意見に最大限配慮した」との自画自賛が聞こえてくる。

 国のパブコメは行政手続法に基づき、省庁が施策を始める際に、あらかじめ各界各層から幅広く意見を聞くものだ。自治体にもすっかり普及している。

 民主的な手続きに思えるが、形骸化が叫ばれている。政策の実行を担う部局がパブコメの窓口も兼ねるケースが大半で、言いっ放し、聞きっ放しになりがちなのは、ある意味、当然の帰結といえよう。

 民主党政権時代、発電に占める原発の依存度と脱原発の目標時期を絡め、政府が複数の選択肢を示して国民が選ぶ「討論型世論調査」が行われた。これもパブコメが「結論ありき」の通過儀礼となっていることに対する問題提起に違いない。

 政府は10月に特定秘密保護法の施行令や運用基準を閣議決定した上で、12月をめどに施行する方針という。

 国民の不安を置き去りにしたままの施行とは、もっての外である。少なくとも今月29日に召集される臨時国会で与野党は、施行の先送りなども視野に、徹底論議しなければなるまい。

(2014年9月17日朝刊掲載)

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