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社説・コラム

社説 スコットランド独立否決 自治の形 重い問い掛け

 住民の過半数は国家の枠組みの維持を選択した。だが、現状に満足しているわけではない。

 世界が固唾(かたず)をのんで見守った英国スコットランド独立の賛否をめぐる住民投票は、反対派の勝利に終わった。

 300年以上続く連合王国が分裂すれば、通貨ポンドの下落や経済悪化を招き、混乱が世界中に拡散する恐れは確かにあった。「連合国家が終わらなくて本当にうれしい」。キャメロン英首相が安堵(あんど)したのも分からなくもない。

 とはいえ半数近くの住民が独立を望んだ事実は極めて重い。英国に限らず各国政府に、地方自治のありようを鋭く問い掛けたといえよう。

 まず注視すべきは、独立を求める声がこれほどまでに高まった背景である。

 スコットランドでは1970年代に北海油田の採掘が本格化するにつれ「利益が地元に還元されていない」との不満が広がった。さらに、サッチャー政権は国営企業の民営化を進め、造船や炭鉱など地元の主要産業を次々に整理した。

 一方でロンドンは近年、国際金融都市として再生し、世界の富が流れ込む。こうした格差の拡大が住民不満の底流にある。

 さらにスコットランドにあるクライド英海軍基地には、核兵器を搭載する戦略原子力潜水艦が駐留している。冷戦が終わっても基地負担を押しつけられている上、核兵器で脅し合うことへの倫理的な問題意識も広まっている。独立派の指導者は「核兵器は要らない」と明確に主張していた。

 一方、独立派の敗因としては将来の国家像が描ききれなかったことが大きい。

 福祉国家という目標を掲げたものの、北海油田の利益配分や通貨ポンドの継続使用については確たる見通しを示すことができなかった。結果として、経済の混乱に対する住民の不安を拭うまでには至らなかった。

 しかし、住民投票が終わっても一件落着ではない。キャメロン首相はスコットランド行政府に、より広範な権限を認めるとした。さらに、イングランド、ウェールズ、北アイルランドの3地域についても「権限移譲を進める」と表明している。

 地方の軽視を続ければ、今後も独立の機運が広がりかねないと相当警戒しているのだろう。税収や福祉の権限をどこまで拡大するか、英政府は各地域との真摯(しんし)な対話を通じ、思い切った施策を打ち出してほしい。

 自治拡大は世界的な潮流といえるからだ。欧州連合(EU)でみてもイタリアやベルギーに分離独立を求める地域がある。とりわけスペインのカタルーニャ自治州では先日、独立を目指す大規模なデモがあり、住民は投票での決着を要求している。

 日本にとっても人ごとではあるまい。米軍基地が集中する沖縄県で、このまま政府が住民の不安を軽視する姿勢を取り続ければ、独立を求める声が噴き出る可能性もある。

 各国政府に求められているのは公平の視点といえよう。地域の多様性と住民の意識を最大限に尊重し、適切な富の再分配を通じて中央と地方の格差をいかに是正していくか。

 スコットランドの住民投票を地方自治、ひいては国のかたちを問い直す契機としたい。

(2014年9月21日朝刊掲載)

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