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社説・コラム

社説 シリア空爆 軍事力 解決になるのか

 泥沼化する中東情勢に、不安を禁じ得ない。

 米国が、シリア領内のイスラム過激派「イスラム国」の拠点へ空爆を始めた。先月イラクで始めた攻撃を隣国にも広げ、「破壊」を目指す方針である。

 ただイスラム国は、油田を制圧し「世界で最も裕福なテロ組織」とされる。欧米の若者を勧誘し、組織の拡大も進む。  新たなテロとの戦いは極めて難しく、長期化は必至であろう。国際社会は極めて重大な局面を迎えた。

 今回の空爆をめぐっては、国連安全保障理事会の決議がなく、シリア政府の要請もない。「国際法に違反する」との見方もロシアなどからくすぶる。

 このため米国は、単独で踏み切りたくなかったのだろう。サウジアラビアなど中東の親米5カ国との共同作戦とした。テロの脅威が差し迫っているとして自衛権行使の必要性を強調し、国際社会に正当性をアピールした形である。

 確かに、イスラム国の行動は非人道極まりない。クルド人など少数民族への迫害も深刻化する。対処が急務であることはいうまでもない。

 軍事拠点が破壊されれば、とりあえず差し迫った脅威を短期的にはそぐことはできよう。

 ただシリアは、内戦状態のさなかにある。空爆した地域は、米国が退陣を要求しているアサド政権側が混乱に乗じて掌握する可能性がある。

 結果として混乱に拍車をかけ、内戦が激化する恐れも否定できまい。

 イラク領内での空爆は既に200回近い。それでもイスラム国の実効支配地域は依然残る。テロ組織への空爆がどこまで有効なのか、疑問符が付くと言わざるを得ない。

 米国は今回、「F22ステルス戦闘機」を初めて実戦に投入したという。果たしてそのような最新鋭の兵器が必要なのだろうか。能力を試す場とする思惑であれば違和感は極めて大きい。

 戦争ではいつも誤爆が起き、罪のない多数の市民が巻き添えになる。親や子どもを殺害された市民が、攻撃した国を憎み、それが新たな過激派を生む土壌となる。そんな負の連鎖を繰り返してはならない。

 過激派の壊滅は全くもって難しい。国際テロ組織アルカイダに対する闘いでは、首謀者が殺害されてもなお、関連組織がアフリカに広がった。その教訓を肝に銘じたい。

 結局、武力だけで問題を解決することはできない。この点をあらためて米国は認識すべきであろう。

 だが今回、国連安保理の首脳級会合の前に空爆へと踏み切った。これでは安保理軽視と見られかねない。国際社会の賛同など要らないというのだろうか。

 「テロと戦うには、経済や教育支援といった包括的な取り組みも重要」。米国から距離を置くエジプトのシシ大統領は、今回の空爆について述べている。

 求められるのは、国連の国際協調主義の下、戦乱で傷ついたシリアとイラクへ継続的に手を差し伸べ、社会と経済を再生させることにほかなるまい。

 日本政府の姿勢も問われよう。軍事力への依存を強める米国追従でいいのか。平和構築に果たすべき役割を、しっかり考えてもらいたい。

(2014年9月25日朝刊掲載)

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