×

社説・コラム

社説 防衛指針の改定先送り 閣議決定 何だったのか

 肩透かしの感が否めない。年内に作業を終えるはずだった日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定について、日本政府は年明け以降に先送りする検討を始めたという。

 ガイドラインの年内改定は米国との約束であり、集団的自衛権の行使容認は、これに間に合わせなければならない―。政府や自民党はそんな説明を繰り返し、7月には閣議決定で憲法解釈を百八十度変更した。

 改定の先延ばしは、この解釈変更が拙速だったと政府自らが認めることに等しくはないか。

 さらに集団的自衛権に関連する安全保障法制の整備でも、安倍政権は週明けからの臨時国会ではなく、来年の通常国会へ審議を先送りする構えだ。

 先月の共同通信の世論調査では6割が行使容認に反対と答えている。今になって、ガイドライン改定も関連法の整備も急がないと政府が言い出して、それで済む話ではない。

 ここは国民的議論を抜きにした閣議決定を白紙に戻し、一から出直してはどうだろう。

 そもそもガイドラインは、自衛隊と米軍の協力の在り方を定めた政府間文書である。日米安保条約が発動される有事も見越し、日米の役割分担を事前に確認しておく意味合いがある。

 東西冷戦下の1978年、旧ソ連の海軍力拡大を受けて初めて策定された。次いで北朝鮮の核開発などの不穏な動きを踏まえ、朝鮮半島周辺事態に備えるとして97年に改定されている。

 むろん、これまでは日本の集団的自衛権行使は想定せず、そうした事態では米国が前線に立ち、日本は後方から支援するのが大原則だった。

 今回は北朝鮮のミサイル開発や中国の軍拡を受け、日米両政府が昨年、改定に合意した。集団的自衛権の行使を前提とすることで、米軍と自衛隊はこれまで以上に幅広い協力態勢を構築できるとの触れ込みである。

 もし財政難の米側が軍事費の削減を続けようとも、安保条約に基づいて日本を防衛する義務は全うしてもらう。それを再確認することが日本側の思惑の一つとの見方がある。

 一方、中国をいたずらに刺激したくないとの思いが米側には強いとされる。このため改定作業は文言の調整で時間を費やしているとも伝えられる。

 すなわち日米双方にとって一刻を争うほどの状況にはない。

 しかも安倍晋三首相が憲法解釈を変更する閣議決定後の記者会見で述べた「丁寧に国民への説明を続ける」との約束が果たされているとは到底いえない。

 改定先送りが、そうした説明を尽くすためなら、うなずける向きがあるかもしれない。ただ政府や自民党は、安保とは別の国内事情も気になるようだ。

 アベノミクスの神通力に陰りが出始め、景気の行方に不透明感が強まってきた。さらに来年の統一地方選を視野に入れれば、国民の反発が強い集団的自衛権論議は棚上げし、当面は景気対策に専念するのが政権浮揚に得策というのである。

 これでは、ご都合主義と言われても仕方あるまい。

 日本が今後も防衛力を高めていくならば、その分、米軍への依存度は下げられよう。在日米軍基地の在り方、ひいては日米安保条約や地位協定を根底から見直す時でもあるはずだ。

(2014年9月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ