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社説・コラム

天風録 「おたかさんからの電話」

 衆議院の土井です―。張りのある声に思わず受話器を握り直した。あのう、議長さんでしょうか? こちらの上ずった声には含み笑いが返ってきた。20年前のこと▲この年の8・6式典は土井たか子さんのあいさつが話題を呼んだ。「敵意と憎悪と軽蔑が何を生み出してきたのか、互いにあらためて自らに問うべき時であると、私は思います」。代筆ではないとみた先輩記者が衆院事務局に尋ねる。まさか本人から直々の折り返しがあろうとは▲事務局が支度した文案を1週間かけて推敲(すいこう)したそうだ。原文は一字一句残っていないのだろうと、長電話を終えた先輩が言う。赤じゅうたんでの「君(くん)」を「さん」づけに代えたように、慣例より自らの信念に正直な人だから▲「広島は私に活を入れていただける地だと、切々と感じました」。電話口ではそんな感想も語っていた。決して偉ぶらず、とことん護憲を、反核平和を説く。被爆半世紀を迎えた翌年の式典も議長あいさつは際立った▲「未来は現在の私たちのものではありません。しかし私たちにしか守ることができません」。聞く者にも活を入れたのが、おたかさん節だった。動かしてもらいたい「山」は今も、幾つも。

(2014年9月30日朝刊掲載)

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