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社説・コラム

社説 所信表明演説 「地方創生」まだ見えぬ

 掛け声ばかりが目立った印象が強い。安倍晋三首相がきのう開会した臨時国会で所信表明演説を行った。

 首相は今国会を「地方創生国会」と位置付ける。来年春の統一地方選に向け、地方の活性化を後押しする姿勢をアピールする狙いがあるのは確かだろう。

 ただ所信表明では、先進的な取り組みを進める地域の事例を並べた以外は、「やれば、できる」「発想の転換が必要」といった抽象的な表現が多かった。

 政府として、どう地方創生を実現しようとしているのか。その道筋が見えてこない。

 若者のIターンが増えている島根県海士町の定住促進策、鳥取県の大山の水を使い全国にリピーターを広げている地ビール…。首相が所信表明で示した事例の一部である。

 これらが地域の特性を生かし実績を挙げているのは間違いない。それぞれの地域の自治体や企業、住民が独自の取り組みを進めた成果である。

 政府には、まだ限定的な先進事例を、どのように他の地域にも広げていくのかが問われよう。その点について、首相は「まち・ひと・しごと創生本部」を創設し、これまでと次元の異なる大胆な政策を取りまとめて実行すると強調した。

 だが具体策として出したのは、ベンチャー企業の支援などにすぎない。今国会に提出する地方創生関連の法案にも触れなかった。これでは踏み込み不足と言われても仕方あるまい。

 首相が今国会のもう一つの柱に据える「女性が輝く社会」の実現についても物足りなさが残る。所信表明では「真に変革すべきは、社会の意識そのもの」と語ったが、具体的に言及した政策は従来の延長線上にとどまった。

 政府は当初、今国会に提出する女性の活躍推進法案で、企業に女性登用の目標を数値で定めるよう義務付けることを検討していた。しかし企業側の反対で数値目標の義務化を見送る方針という。

 気になるのは、地方の再生や女性の社会進出の促進といった難しい問題に、首相が地に足を着けて取り組む覚悟があるのかということだ。

 4月の消費税の増税以降、個人消費の回復は遅れ、景気全体も変調が指摘されている。神通力を失いつつあるアベノミクスに代わる当面の「看板」として、地方と女性を掲げたとの見方もあるようだ。

 まず安倍政権に求められるのは、実効性のある具体策を示すことである。政府の本気度が試されよう。

 さらに見過ごせないのは、来年10月に消費税を再び引き上げるかどうかの判断について所信表明で全く触れなかったことだ。首相はこれまでに、7~9月の国内総生産(GDP)を参考にして年末に決める方針を示している。

 国民の関心が非常に高い問題である。あらためて現時点での考え方を述べるべきではなかったか。

 首相は安全保障関連の法整備にもほとんど言及しなかった。来年の通常国会に審議を先延ばししたのが理由だろう。

 だが7月に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をして以降、初めての国会でもある。首相はしっかりと説明すべきだ。

(2014年9月30日朝刊掲載)

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