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社説・コラム

社説 香港民主派デモ 対話で収めるしかない

 次期行政長官選挙の制度改革に反発する香港の民主派デモが1週間になる。きのうは包囲行動によって政庁本部庁舎の機能がまひ状態に陥り、夜に学生とデモ反対派の衝突も起きた。

 今のところデモ隊は秩序が保たれている模様で、一時は催涙弾まで使った警察の対応に行き過ぎがあったといえよう。ナンバー2の高官に学生との対話に当たるよう、梁振英長官がきのうになって指示した。解決の兆しになることを願いたい。

 香港の憲法に当たる香港基本法は、政庁が制御できない動乱には戒厳令や解放軍の投入が可能だとしている。民主派も、軍が出動するなら即座に解散する構えだという。武力介入の口実を与えて、天安門事件のような事態を招くことだけは双方とも避けなければならない。

 とはいえ火に油を注いだ梁長官の責任は重大だ。民主派からの長官への辞任要求は、催涙弾使用に反発した動きだからである。対話による解決は長官の身の処し方を抜きにはできまい。

 香港基本法は、将来的に行政長官の普通選挙を実施することを認めている。しかし、中国は2007年と12年の選挙では先送りした。さらに次の17年は普通選挙に応じるとしながら、8月末、立候補には親中派が多数を占める指名委員会の推薦が必要とする制度を発表した。

 これによって民主派は事実上立候補できず、今回のデモにつながったことは間違いない。

 中国は国際公約を忘れるべきではない。1997年の香港返還に当たっては、英領時代の政治制度を50年間維持し、「高度な自治」を認めると宣言している。これが一国二制度であり、「港人港治」とも呼ばれる。

 ところが国務院は最近、これを再定義し、「全面的な管轄統治」を強調するようになった。恣意(しい)的に国際公約をたがえたと言われても、仕方あるまい。

 世界の金融センターである香港は、中国本土とは異なる近現代を歩んできた。現在も外交権こそ中国に帰属するが、経済社会分野の条約締結や国際会議への参加などが認められている。返還後も司法の上では英米法が適用され、死刑制度はない。

 選挙にしても制約のない民主的な制度でなければ受け入れられまい。市民の間に不安と反発が強まるのは、当然だろう。

 中国共産党指導部は移動制限など国内の少数民族への監視を強めている。ウイグル族独立派の過激化や、スコットランド独立投票など内外の動きに神経をとがらせる中で、香港の離反も警戒しているのだろう。

 だが、香港のデモが分離独立を目指す運動かどうかは、さだかでない。一国二制度の枠組みで民主主義を、という主張が大勢を占めるのではないのか。

 それだけに共産党機関紙、人民日報が「香港を独立、半独立の政治実体に変えようとしている」と民主派を指弾するのは、過剰反応といえなくもない。ましてや、当局がデモを支持する民主活動家を拘束したり、言論やネットを統制したりしていては、墓穴を掘るだけだ。

 オバマ米大統領の「デモ支持発言」も出たが、香港が米中の火種になったとしても、問題の解決にはつながるまい。中国が一国二制度の原則に立ち返り、強権姿勢で臨まない。それしか沈静化の道はなかろう。

(2014年10月4日朝刊掲載)

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