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社説・コラム

社説 ガイドライン中間報告 なし崩しは許されない

 日米両政府が防衛協力指針(ガイドライン)の改定作業を進めている。きのう中間報告を公表した。

 見過ごせないのは、日本国内での有事以外に自衛隊が米軍を支援する「周辺事態」という想定を撤廃しようとしていることだ。曖昧な表現ながら、日本周辺の地域という地理的な制約ととらえられてきたはずである。

 新たな指針は、両国で国際的な安全保障に寄与するためとして、その制約を取り払おうとしている。もしそうなれば、自衛隊が世界各地で米軍の戦争に協力を迫られる局面は確実に増えるだろう。

 ガイドラインは冷戦時代、旧ソ連の脅威に備え、自衛隊と米軍の役割分担を定めたのが始まりだ。もともと日本防衛のための協力に限られていた。

 周辺事態を盛り込んだ現行の指針は1997年に策定された。いま一度、当時の議論を振り返ってみる。

 北朝鮮の核開発などをきっかけに日米両政府が真っ先に念頭に置いたのが、朝鮮半島での有事だろう。万一のとき自衛隊が米軍を支援できるようにつくり出したのが、周辺事態という考え方である。

 ただ政府はその定義について国会でも曖昧な答弁を繰り返す。当初は「日本の平和と安全に重要な影響を及ぼす事態で、地理的に特定はできない」としていた。自衛隊が米軍に協力できる範囲を、可能な限り広げておきたいという思惑もあっただろう。

 しかし当時の小渕恵三首相は「中東、インド洋、地球の裏側は考えない」とも答えている。そのため周辺事態には事実上、地理的な制約があると考えられてきた。自衛隊の海外派遣に一定の歯止めをかけてきたのは確かだ。

 その歯止めさえも無くしてしまおうというのが、新たな指針である。強い懸念を抱かざるを得ない。

 指針を改定する理由として、安倍政権は海洋進出を強める中国への対応を挙げる。沖縄県の尖閣諸島周辺で中国との偶発的な衝突に発展する可能性も視野に入れているという。

 たとえ指針を改定する必要があるとしても、地理的制約をなぜ取り除かなければならないのだろうか。中国の脅威を前面に出すことで自衛隊の役割そのものを大きく変えようとしていると疑いたくなる。

 現行の指針の下でも、政府はその都度、特別措置法をつくり、イラク、インド洋と自衛隊の海外派遣を重ねてきた。新たな指針で制約がなくなれば、さらになし崩しになろう。

 海外での米軍支援に幅広い道を開く新指針は「日本の平和と安全につながる」と安倍政権は説明している。とはいえ、それは全く逆なのではないか。

 むろん日本も国際平和に役割を果たしていく必要はあろう。ただし、これまで国際社会で評価を得てきた民生支援を優先すべきだ。

 また、安保分野であっても国連の枠組みを重視することが欠かせまい。憲法が定める平和主義を踏まえなければならないのはもちろんだ。

 日米両政府は年明け以降、ガイドラインを改定する。少なくとも地理的制約の撤廃は思いとどまるべきである。

(2014年10月9日朝刊掲載)

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