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社説・コラム

社説 マララさんに平和賞 揺るがぬ「まず教育を」

 今回のノーベル平和賞は歴史に残る選考だったと、長く語り継がれることだろう。過去最多の278候補の中から、史上最年少の17歳が選ばれた。

 受賞者の1人、マララ・ユスフザイさん。2年前の10月、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の凶弾に倒れた。命を取り留めたのはまさに奇跡だった。

 昨年も平和賞にノミネートされていた。若すぎると懸念する声があった。だが、その若さこそが受賞の決め手ではなかったか。少女があれほど強い信念を持ち続けていることに、命を狙われても決して曲げなかったことに、世界中が驚いた。

 児童労働問題に取り組むインドのカイラシュ・サトヤルティさん(60)とともに受賞する。ノルウェーのノーベル賞委員会は「子どもや若者の抑圧への抵抗、全ての子どもが教育を受ける権利に向けた努力」と授賞理由を説明している。

 その努力の神髄をまざまざと私たちに伝えてくれたのが、マララさんが16歳の誕生日を迎えた昨年7月、国連本部でのスピーチにほかならない。

 「世界の無学、貧困、そしてテロリズムに立ち向かいましょう。本とペンを手に取ってたたかいましょう。それこそが私たちの最も強力な武器なのです」

 「エデュケーション ファースト(まず教育を)」と締めくくったマララさんに、万雷の拍手が送られた。

 戦争や貧困によって教育を受けられない子どもが、この地球上にはいかに多いことか。とりわけ女子教育は不要だという偏見が根強くはびこっている。

 マララさんを銃撃したタリバンは学校の襲撃も重ねてきた。命こそが大切だとの教育こそ、命を何とも思わない残虐行為を否定する。彼ら過激派は教育を怖がっているのだと喝破したのもマララさんだった。

 イラクやシリアで台頭する「イスラム国」に若者たちが雇い兵として吸い寄せられている。戦闘行為にとどまらず、拉致した女性の人身売買にも手を染めていく。

 あるいは、紛争がなくても教育を受けられないがために、世代を超えた貧困の連鎖から抜け出すことができない子どもたちも少なくない。

 そうした状況は決して遠い国だけの話ではない。経済大国として恵まれた教育環境にあるように見えるが、再チャレンジを妨げる貧困や不平等は紛れもなく存在する。それが、わが国の覆い隠せない現実だ。

 先進国や途上国を問わず、戦争も紛争も、貧困も差別も抑圧もなくしていく。気の遠くなる営みだが、不可欠であることはいうまでもない。

 そのために、まず本やペンがなければ、人々の心に平和のとりでを築くことができない。それが今回の平和賞に込められたメッセージなのだろう。

 では、大人たちの努力は果たして十分だろうか。むしろ圧倒的に足りないのではないか。今回の平和賞は皮肉な現実さえも私たちに突き付ける。少女に賞を授けて、それで平和が実現するわけでは決してない。

 彼女を特別な存在とせず、いかにして何万人、何億人もの「マララさん」を育てていくか。世の大人全員が、大きな宿題をもらった。

(2014年10月11日朝刊掲載)

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