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社説・コラム

天風録 「9条イストの底力」

 作家村上春樹さんの熱烈ファン、ハルキストがため息ついて一夜明けたきのう、今度はノーベル平和賞に注目した人もいただろう。わが憲法第9条が候補だった。それも保持する国民、つまり私たちを受賞者にするというのだから▲戦争放棄をうたい、公布から70年近く守られてきた。関東の主婦の呼びかけから運動が広がり一躍、候補に。各地で緊張が高まる今こそ、世界は9条の価値を認識すべきだ―。そう評し、最有力とみる予想まであった▲278もの候補から、平和賞に2人が輝いた。あの少女マララ・ユスフザイさんも。イスラム過激派の銃撃で重傷を負わされながらパキスタンの17歳は決してくじけない。女性と子どもの権利向上に身をささげている▲卑劣な銃弾やテロリストに、教育の力で立ち向かう姿勢が胸を打つ。「1本のペン、1冊の本こそが最強の武器となって、世界を変えていくのです」。国連で力を込めて語ったアピールは、日本の憲法に通じるようだ▲世界が9条に送った熱視線はエールだったに違いない。今、理念を骨抜きにしかねない動きがある。不屈のマララさんを見習って、受賞の日まで守れるか。「9条イスト」の底力が問われる。

(2014年10月11日朝刊掲載)

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