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社説・コラム

天風録 「サトヤルティさんの道」

 かほどの手柄をたてながら今回の失策は汝(なんじ)のために惜しむ―。日ごろの行いを褒めた後に過ちを叱る、という意だろう。「インドカリー」の新宿中村屋初代、相馬愛蔵の至言と伝わる▲ひどい食事とげんこつで、奉公人をこき使う商いが多かった明治の頃だ。うまい物を食べさせ観劇など勧めたから、中村屋は士気が上がって繁盛した。亡命中のインド独立運動家をかくまう愛蔵は、義の人でもあった▲そのインド、とうに英国植民地を脱して今や新興国。なのに、ひどい労働から救い出された子どもが、30年間で8万人にも上るという。マララさんとともにノーベル平和賞に決まったサトヤルティさんは、その活動一筋である▲マララさんと同じように襲撃されて重傷を負った。それでも、悪魔が復讐(ふくしゅう)しないようなら私たちの力不足なのだ、とひるまない。マハトマ・ガンジーの説いた自由は、独立だけでなく搾取からの解放も意味すると信じ▲だが今の日本にも、ひどい食事やげんこつに泣く子はいよう。褒められることもないまま虐待の末の死も。先週は自宅の柱に鎖でつながれた男児が、110番通報で救われた。子どもたちの受難は人ごとでも、昔の話でもない。

(2014年10月12日朝刊掲載)

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