スコープ 中電、域外電力販売へ攻勢 全面自由化にらみ三隅火電増強
14年10月17日
管内需要減で新収益源
中国電力が供給エリア外への電力販売に向け、準備を加速させている。関西電力への販売を目指し、三隅発電所(浜田市)に2号機の建設を検討。首都圏や関西の企業や家庭へ売る手続きも進める。福島第1原発事故後の原発停止の影響が他社に比べて小さく、2016年の電力小売り全面自由化に向け、攻めの姿勢が際立つ。(山瀬隆弘)
「中電の積極性を感じさせる動きだ」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荻野零児シニアアナリストは、三隅発電所2号機の建設検討をこう受け止める。100万キロワット級の石炭火力発電所を新設し、関電の新設火力発電所の入札に参加するとみられる。
荻野アナリストは「三隅2号機を建てれば関電への卸売りにはとどまらない。関西で関電以外への販売も狙うだろう」と話す。中電のある幹部も「域外への供給は、卸売りでスタートして小売りに広げる可能性が高い」と語る。
工場の撤退相次ぐ
中電が域外販売を積極化する背景には、管内の需要の伸び悩みがある。人口減に加え、近年は工場の撤退も相次ぐ。国によると10年度の冬と今冬を比べた経済活動の縮小に伴う需要減は、中電が9電力で最大。苅田知英社長は「中国地方の電力事業は成熟期にある。域外に新しい収益源を検討する必要がある」と唱える。
9月には子会社のエネルギア・ソリューション・アンド・サービス(広島市中区)が16年に電力販売を始めると国に届け出た。首都圏や関西の企業、家庭向けに売るとみられる。JFEスチール(東京)や東京ガスと共同で首都圏に火力発電所を建て、東電の火力入札に参加する意向も持つ。「地方の電力会社では突出した動き」と荻野アナリストは分析する。
原発の影響限定的
全面自由化への対応は、電力全社に突き付けられた課題だ。だが、対応する余力は各社により差がある。富士通総研の高橋洋主任研究員は「中電は比較的、財務状態が良く、競争に打って出やすい」と指摘する。福島第1原発の事故を受けた原発停止の影響が、限定的なためだ。
中電は発電量に占める原発の比率が他社より低い。この結果、原発停止後も電力供給に大きな影響は出ていない。多くの電力会社が踏み切る料金の抜本値上げをせず、株主配当も続けている。「他電力より域外販売を前向きに考えられる環境」(高橋主任研究員)を追い風に、中電の動きが際立つ形となっている。
全面自由化後、電力会社間の競争がどこまで進み、消費者にどれだけ恩恵が出るのか、現時点では不透明な面も多い。高橋研究員は「各社がエリア外の競争にどこまで割って入るのか。自由化に対応した電力会社間の競争の『本気度』に注目したい」と話す。
◆記者の目◆
電気代の抑制へ大手の競争必要
政府が電力小売りの全面自由化を進める狙いは、電気代の抑制にある。異業種から参入する新電力が全国で小売りの準備を進めるものの、自由化の効果を出すには大手電力会社が加わった競争が欠かせない。電力購入の選択肢が増え、消費者が恩恵を実感できる自由化を期待したい。
電力小売りの自由化
大手電力会社の地域独占をやめ、新規企業の参入を促して電力を自由に販売できるようにする取り組み。大口の企業向けは既に自由化されている。2016年には家庭向けも市場開放され、全面的自由化される。電力会社間の競争が激しくなり、電気料金の抑制などが期待される。
(2014年10月17日朝刊掲載)