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連載・特集

緑地帯 私とクルドとイラク 玉本英子 <7>

 今年の1月、私は内戦が続くシリアのアレッポ県北部の町、アイン・アル・アラブに入った。周辺はイスラム過激派組織が支配し、地元のクルド人の民兵組織と戦闘が続いていた。

 水や電気も止まり、食料も手に入りにくい状況の中、イスメット・ハサンさんは、不足するガソリンをかき集めて車を運転し、毎週のように前線へ向かっていた。48歳の電気技師で、7人の子どもの父親。各武装組織の間に入り、捕虜の交換や戦闘の停止などを呼び掛けていた。

 スパイと間違われ、頭に銃を突き付けられたこともあった。戦闘が激化すると、交渉も初めからやり直しだ。それでも武器を持たずに粘り強く交渉を続けることで、相手側も少しずつ話に応じるようになったという。

 イスメットさんは言う。「国内から『戦闘をやめろ』という声を上げていかなくてどうする。自分は最後の一人になっても、ここに残るつもりだ」

 同じ頃、スイスのジュネーブで開かれたシリア和平のための会議では、政府側と反体制派の間で直接協議が持たれたが、どちらも相手への批判に終始し、進展もなく終わった。

 「木を見て森を見ず」という言葉がある。しかし今、「森」だけを見て全てを語る人が多すぎる。イスメットさんのような「木」の訴えと、それを知り、支える「木々」の行動が、結局は戦争を止めるのではないか。

 森は機上から見えるが、木はその地に立たないと分からない。だから私は現場に立ちたい。(ジャーナリスト=大阪府豊能町)

(2014年9月20日朝刊掲載)

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