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被爆65年のヒロシマ 核廃絶 期待と失望交錯

■記者 金崎由美

 被爆65年の8月6日。広島市中区の平和記念公園を会場にした平和記念式典に、米国政府代表として初めて参列したルース駐日大使と、国連の潘基文(バンキムン)事務総長の姿があった。

「沈黙の参列」

 「核兵器のない世界という私たちの夢を実現しよう」。そう力強く呼びかけた潘氏と対照的に、ルース氏は沈黙を守った。

 昨年10月に家族と広島を訪れた際、「核兵器の破壊的性格を強力に思い起こさせる」と語ったルース氏。今年の8月6日は一転、原爆投下の肯定論が根強い米国内世論に配慮したとみられる「沈黙の参列」を貫いた。市民の一部に反発が出た一方で、「歴史的一歩」との評価もあった。

 平和記念式典に先立つ5月。米ニューヨークの国連本部で、5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれた。日本政府が首相や外相たち閣僚の出席を見送る中、被爆者をはじめ日本から約2千人が現地に行き、被爆証言など精力的な活動を展開した。

 平和市長会議(会長・秋葉忠利広島市長)が採択を目指した2020年までの核兵器廃絶の道筋を示す「ヒロシマ・ナガサキ議定書」は、議題に上がらなかった。それでも10年ぶりに採択された最終文書は、各国が利害を主張する厳しい交渉の末、核兵器使用の非人道性を明記。潘事務総長がそれまで提唱してきた「核兵器禁止条約への交渉の検討」の文言も加わった。

米が実験強行

 一連の動きは、昨年4月にオバマ米大統領がプラハで演説して以降の「核兵器なき世界」の潮流を感じさせた。だが、被爆地の希望は大統領自身の決断で暗転する。オバマ政権は9月、初の臨界前核実験を強行した。

 広島に失望が広がる。日本被団協の坪井直代表委員は「被爆者への裏切りだ」と憤った。一方で「今こそヒロシマが踏ん張る時」との声も出た。広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長は「保守派へ譲歩せざるを得ない国内事情がある。大統領を全否定するのではなく、被爆国が廃絶の国際世論を高めるべきだ」と指摘する。

 11月にはノーベル平和賞受賞者世界サミットが国内で初めて広島市で開かれ、歴代受賞者が平和記念公園から国内外にメッセージを発した。

 核兵器廃絶への期待と失望が交錯したこの一年。北朝鮮の核開発問題も深刻化する中、廃絶への強い決意を世界に伝え、賛同の輪を広げる発信力が被爆地に問われている。

2010年8月6日の平和記念式典
 被爆者と遺族、市民たち5万5千人が、広島市中区の平和記念公園で原爆犠牲者を追悼した。この1年間に亡くなった被爆者5501人(新たな死亡確認を含む)の死没者名簿を原爆慰霊碑に納めた。名簿は97冊、26万9446人になった。政府代表は過去最多の74カ国が出席した。核兵器保有国からは初参列の米国、英国、フランスに加え、ロシアが参加。国連事務総長の潘基文氏も参列した。

(2010年12月22日朝刊掲載)

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