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原爆資料館の畑口前館長 証言活動始める

■記者 森田裕美

 原爆資料館(広島市中区)の前館長で、胎内被爆者の畑口実さん(62)=廿日市市=が今春から、被爆証言活動を始めた。「あの日」の記憶はない。だが、被爆者の高齢化が進むいま、自らの半生を語ることで「ヒロシマを伝えたい」と願う。

 広島鉄道局管理部(現南区)で被爆した父を捜し、入市被爆した母の胎内にいた。亡くなった父の顔も、惨状も知らない。県被団協(坪井直理事長)の「被爆を語り継ぐ会」から証言依頼を受け、「私に語れるのか」と悩んだ。

 父がいなかった寂しさ、焼け跡から遺骨と遺品を掘り出した母の痛み、原爆の話を避け続けてきたのに館長に就任した葛藤(かっとう)…。「自分の経験なら伝えられる」と決意を固め、会員となった。

 4月から休日や夜、修学旅行で県内を訪れる中高生に語っている。10日夜は、中区のホテルで神奈川県の中学生約170人を前にした。「幼いころの嫌な経験を思い出し、さらけ出すのはつらい。でも誰かが語らねばヒロシマは忘れられる」。活動の苦労を問われ、答えた。

 畑口さんは1997年、館長に就任し、9年間務めた。市役所を退職後、昨年4月から広島原爆障害対策協議会(原対協)事務局長を務めている。

 語り継ぐ会の会員は現在、33人。大半は70歳代半ばを超す。夜間や宮島など遠方での証言依頼に、応じられないケースも増えている。被団協の木谷光太事務局長(66)は「原爆をじかに体験した証言者はいつかいなくなる。『私の被爆体験』を語り継ぐことに意味がある」と期待している。

(2008年6月13日朝刊掲載)

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