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連載・特集

廃炉の世紀 第1部 先進地欧州 <1> 長い道のり(英国) 

発電所 90年かけ解体

作業中断し「安全貯蔵」

 古い原子力発電所を解体して撤去する廃炉が、世界で大きな課題となっている。運転を終えた原発は世界で152基。中国地方では、運転40年を超えた中国電力島根原発1号機(松江市)が、存廃の岐路に立つ。廃炉と「核のごみ」をコントロールできるのか。先進地、欧州の現場を歩いた。(山本洋子)

 英国南東部の海沿いにあるブラッドウェル原発(2基、出力計約30万キロワット)。「ここが英国の廃炉のトップランナーだ」。運営するマグノックス社の現場責任者イアン・ボーンさんが胸を張った。電力自由化で競争力を失い、2000年に一斉に閉鎖が発表された20基の一つ。02年に廃炉作業に入った。

 第1段階は、使用済み燃料の搬出。約3年かけて約4万1千体の燃料を取り出し、北西部のセラフィールドの再処理施設へ送った。「これで原発にある99%の放射性物質は取り除いた」とボーンさん。放射性廃棄物は、敷地内に新設した中間貯蔵施設などへ次々移されている。

 作業は、当初予定より約10年早いペース。だが「これからが長い」とボーンさんは言う。来年末に作業を中断し、800人の作業員は撤収。原発から人が消える。作業を再開するのは2083年という。

 原子炉に覆いを掛け、放射能レベルが減るのを待つ「安全貯蔵」に入るためだ。原子炉の中心部分は、放射能レベルの高い機器がたくさんある。作業員の被曝(ひばく)を防ぎながら解体するには、高価な遠隔操作のロボットや特殊な技術が必要になる。

 ブラッドウェルは長期間、遠隔監視の下で原子炉を静かに置き、放射能が作業をしやすいレベルに下がるのを待つ。再開後、すべての作業が終わるのは92年度。40年動いた発電所を、2倍以上の90年かけて取り壊す。「廃炉は1世代では終わらない作業だ」。ボーンさんは語る。

 「負の遺産」。初期の原発や老朽化した核関連施設をこう呼ぶ英国。原子力廃止措置機関(NDA)が先進例で蓄積した技術や経験を集約し、旧式原発の廃炉を進める。民間事業者がそれぞれ廃炉を進める日本でも「英国に倣うべきだ」とする指摘は多い。

 廃炉は地域にも波紋を広げる。ブラッドウェルには原発の新設計画もあるが宙に浮いている。ブラッドウェル原発と市民の対話組織の議長ブライアン・メインさん(75)は「閉鎖は新設の話とセットだった。雇用が増える、と地域は前向きに喜んだんだ」と説明する。

 安全対策に加え、廃炉や放射性廃棄物の処分費用も織り込んだ経営を求められるため、民間は新設にやや及び腰という見方が強い。原発のない時代も見据え、地域も模索を続けることになる。

英国原子力廃止措置機関(NDA)
 老朽原発の廃炉を進めるために英国政府が05年に設立した。フランス電力公社(EDF)が所有する原発を除く19原発の運転、廃炉を進めるほか、放射性廃棄物の処分事業も担う。予算の7割程度が政府助成。それぞれの廃炉を管理する企業を国際競争入札で選ぶなど、廃炉費用の抑制も進めている。

(2014年10月28日朝刊掲載)

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