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連載・特集

廃炉の世紀 進む老朽化 国内深刻 

 人類初の原子力発電所が稼働して、ことしで60年。世界は本格的な廃炉時代に入った。経済産業省は今月、老朽原発を廃炉にするかどうかの早期判断を電力業界に要請。中国電力は、運転40年を超えた島根原発1号機(松江市)の判断を迫られる。原発を閉じる決断は、道筋の見えない放射性廃棄物の処分という難題を目前に突き付ける。いかに廃炉の世紀と向き合うか―。現状と課題を探る。(山本洋子、境信重)

運転期間「原則40年」に制限

想定外 巨額負担が不可避

 「(古い原発の廃炉について)考え方を早期に示してほしい」―。小渕優子前経済産業相は17日、電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)に迫った。対象は島根原発1号機を含む、運転期間が40年前後の7基。再稼働を望む電力会社は、来年4~7月に原子力規制委員会に申請しなければならない。

 福島で原発事故が起こるまで、多くの電力会社は「60年運転」を想定していた。だが、原子力規制委は昨年7月、原発の寿命を「原則40年」と制限。安全対策のハードルを上げた新基準に古い原発を合わせるには、巨額の投資が避けられない。米国、フランスに次ぐ原発大国、日本は初めて「廃炉ラッシュ」を迎える公算が大きい。

 日本の原子力発電は1970年代から本格化。廃炉を決めた原発を除く48基のうち4割近い18基が30年を超え、2割強の11基は35年を超えている。廃炉作業を終えたのは、茨城県東海村の日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の動力試験炉「JPDR」(出力1万2500キロワット)だけ。国内で初めて発電に成功した超小型炉だ。福島第1原発を除き廃炉作業に入ったのも、国内初の商業炉、日本原子力発電の東海発電所(16万6千キロワット、東海村)など4基しかない。

 事業者は建設、運転から廃炉まで責任を負う。日本原子力産業協会の服部拓也理事長は「(業界は)計画外の早期廃炉という極めて重い経営判断を迫られる」と強調。ただ技術面では「より合理的、効率的な解体方法は追求すべきだが特段の課題はない」とする。

 地域への影響も大きい。エネルギー基本計画を具体化する議論を6月に始めた総合資源エネルギー調査会原子力小委員会。7月の会合で、全国原子力発電所所在市町村協議会の河瀬一治会長(福井県敦賀市長)は「廃炉になれば、立地地域の産業構造の転換は必至」と主張し、廃炉に伴う新たな交付金制度の創設などを求めた。

 新増設なしで国内の原発48基が全て40年で運転を終えれば、2049年には「原発ゼロ」となる。しかし大量の廃炉作業は、その後も長期にわたり続く。

迫られる処分場の確保

候補地・基準さえ決まらず

 廃炉が難しいのは、原発を解体すると、放射能を帯びたごみが大量に発生するからだ。これをいかに処分するか、明確な道筋はまだない。

 国の試算では、使用済み燃料などを取り出した後、出力110万キロワット級の沸騰水型軽水炉(BWR)から出るごみの量は約54万トン。安全性を高めるため強固な造りとなっていることなどから、膨大な量となる。このうち約2%に当たる約1万トンが「低レベル放射性廃棄物」として扱われる。残り約98%は普通のごみと同じようにリサイクルしたり、産業廃棄物として処分したりすることを想定する。

 低レベル放射性廃棄物は放射能レベルで「L1」(比較的高い)▽「L2」(比較的低い)▽「L3」(極めて低い)の3段階に分け、地中に埋める計画。処分場は事業者に確保する責任があるが、L1、L2は全く決まっていない。

 敷地内の保管が長引けば、廃炉作業にも影響が及ぶ。2001年に商業炉で初めて廃炉作業に入った日本原電東海発電所は昨年12月、廃炉完了を20年度から25年度末に延長を決めた。当初予定からは8年遅れる。低レベル放射性廃棄物を埋める場所が決まらないためだ。見込み量は、解体ごみの総量の14%に当たる2万7千トン。日本原電は「最終的な処分先が決まらないと原子炉解体には着手できない」と説明する。

 一方、使用済み核燃料は再処理されプルトニウムやウランを取り出す。この過程で発生するガラス固化体などの高レベル放射性廃棄物は、地中深くに埋める地層処分が計画されている。だが処分場の候補地も、規制基準さえも決まっていない。

 「古い炉の廃止がいや応なしに進む可能性がある中で、放射性廃棄物をどうするかという規則はまだ十分でない」。原子力規制委の田中俊一委員長は「準備不足」を認める。高レベル、低レベルいずれの廃棄物についても「処分すると言っても場所も決まっていない。全体像を見直す必要がある」と安全に保管、管理する仕組みづくりを急ぐ。

高レベル放射性廃棄物
 使用済み燃料を再処理し、燃料として再利用できるプルトニウムやウランを取り出した後に残る核のごみ。液状で、ガラス原料とともに高温で溶かしてステンレス製の容器に入れて固める。製造直後のガラス固化体の表面の放射線量は、20秒弱で人間の致死量に達する毎時1500シーベルト。日本では青森県六ケ所村の貯蔵施設で30~50年間冷やした後、地下300メートルより深い安定した地層に埋めて最終処分する計画だが、処分地選びは難航している。

日本の廃炉の流れ
 除染、安全貯蔵、解体撤去の大きく3段階に分かれる。除染は配管内などの放射性物質を取り除く。安全貯蔵は、原子炉などの放射線量が減るのを待つ。解体撤去は、放射性物質の飛散を防ぎながら施設を解体する。バーチャル(仮想)技術で作業をシミュレーションしたり、原子炉内の設備を遠隔操作で切断したりして、作業員の被曝(ひばく)を少なくすることが求められる。原子炉等規制法に基づき、電力事業者は廃止措置計画を国に提出し、認可を受ける必要がある。

(2014年10月28日朝刊掲載)

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