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連載・特集

廃炉の世紀 原発60年 岐路の世界 

スウェーデン 核のごみ 埋設10万年想定

 ごつごつとした岩肌があらわな地下420メートルのトンネル内。「核のごみ」を入れることを想定した長さ約5メートルの円筒の容器が横たわっていた。容器を動かすための70トン余りある巨大な重機がひときわ目を引く。

 隣国フィンランドとともに、世界に先駆けて高レベル放射性廃棄物の最終処分場の予定地を決めたスウェーデン。使用済み核燃料を地層処分するための研究が実際の地下施設で行われている、南部のエスポ岩盤研究所を訪れた。

 一つの容器に入る廃棄物は2トン。腐食に耐えるため、外側を厚さ5センチの銅が覆う。現在は、空の容器を重機で穴に収めるテストを何度も繰り返す。棒状の機器を岩に差して水圧を測るなど、地下水の流れや岩盤の状態を詳しく調べる。

 実際の処分場の予定地には、研究所の約500キロ北にあるフォルスマルクが選ばれた。2028年にも地下500メートルに運び始める。「無人の重機が計約6千本の容器を埋める。周りを特殊な粘土で固めてトンネルも埋め、全ての作業が終わるのは2100年だ」。廃棄物を管理するSKB社の広報担当ローランド・ヨハンソンさん(66)は、70年以上続く作業をこう説明する。

 だが、課題はその先にある。容器と粘土、地層と3重のバリアーで封じ込めるが、放射線量を減らすための時間は途方もなく長い。埋設期間は10万年。地層が動いて容器が壊れ、放射線が地表に漏れるリスクも完全には消せない。

 SKB社が処分場の建設許可を申請したのは11年3月。「福島の事故の5日後。申請するべきか、関係者は揺れ動いた」とヨハンソンさん。スウェーデンが定める原発の寿命は60年。新設がなければ45年までに全10基が廃炉となり、計約1万2千トンの使用済み核燃料を地層処分することになる。

英国 国策で強力に処分推進

ドイツ 除染解体ノウハウ蓄積

 巨大な原子炉建屋が、すっぽりとアルミニウム製のカバーで覆われていた。英国東部の海岸沿いに立つブラッドウェル原発(2基、出力計約30万キロワット)。40年間の営業運転を終え、2002年に廃炉が始まった。

 「建屋が劣化しないよう周りを覆って、原子炉は静かに置いておくんだ」と担当者。建屋は来年から約70年間、放射線量を下げるために「安全貯蔵」し、原子炉はじっと解体の時を待つ。

 核兵器開発を起点に1956年、世界初の商業原発を稼働させた英国。ブラッドウェルを含む旧式原発29基が運転を終えた。日本は廃炉作業の期間を「20~30年程度」と見込むが、英国は放射線量が高い原子炉を70年前後、安全貯蔵した後に解体、撤去する「超長期戦略」を選んだ。

 「100年規模の作業に責任を持つ」として政府は05年、独立した原子力廃止措置機関(NDA)を新設。税金を投じる「国策」として、廃炉と廃棄物の処分を強力に進める構えだ。東京電力がことし9月、福島第1原発の事故対応で英セラフィールド社との情報交換の協定を結ぶなど、日英が連携する動きもある。

 ブラッドウェル原発で全ての作業が終わるのは2092年度。運転停止から約90年をかけて、地域は廃炉と向き合うことになる。

 原子力バックエンド推進センター(東京)によると9月末現在、運転を完全に終えた原発は世界で152基。米国、ドイツ、日本などの計21基は既に廃炉作業を終えた。

 最も経験を持つのは世界一の原発大国、米国だ。近年は「シェールガス革命」でエネルギーの価格競争が激化。採算性などを理由に13年だけで4基が廃炉を選び、原発の「100基割れ」も現実味を帯びる。

 福島の事故を機に、22年末までの「脱原発」を掲げたドイツ。1995年から廃炉に取り組むグライフスバルト原発は、欧州最大の廃炉プロジェクトとされる。5基の廃炉に取り組み、解体や除染、放射性廃棄物の中間貯蔵などのノウハウを蓄積してきた。同原発を運営するEWN社が他国の廃炉やロシアの原子力潜水艦の解体を受注するなど、国境を越えた「廃炉ビジネス」も見据える。

 米国に次いで原発が多いフランスは、福島の事故後に発足したオランド政権が、2025年までに電力の原発依存度を75%から50%に下げるなどの「減原発」政策を進めている。

各国の高レベル放射性廃棄物の処分計画
 フィンランド、スウェーデン=世界で最終処分場の建設地を正式に決めているのは、この2国だけ。両国とも使用済み燃料を再処理せず、そのまま地層処分する。

 米国=ネバダ州ユッカマウンテンに最終処分場を計画していたが、オバマ政権は同地での建設を中止する方針。

 フランス=精密調査を続けている同国北東部にあるビュール地下研究所周辺での建設を来年以降に申請し、2025年ごろの操業開始を目指している。

 英国、ドイツ=いったん候補地を絞り込んだものの、地元の合意形成ができずに白紙に戻し、選定をやり直している。

(2014年10月28日朝刊掲載)

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