×

社説・コラム

社説 原発再稼働と地元合意 周辺自治体の声尊重を

 原発再稼働に向けて合意が必要な地元とは、立地自治体だけでいいのだろうか。

 九州電力川内原発1、2号機のある鹿児島県薩摩川内市がきのう、再稼働に同意した。雇用の確保をはじめ地域経済に配慮したのだろう。鹿児島県も近く判断するという。

 地元の同意手続きはこれで終え、年明け以降の再稼働へとレールが敷かれつつある。だが周辺自治体の反発は根強い。事故発生時には被害が及ぶと想定されるのだから当然であろう。

 新規制基準による再稼働の第1号である。これを地元合意の前例にされては困る。

 再稼働の際に同意の要る地元の範囲を定めた法的な枠組みはなく、国はそれぞれの地域に委ねている。川内原発では、伊藤祐一郎知事が「薩摩川内市と県で十分」と繰り返してきた。

 しかし周辺自治体は納得していない。近隣2市の市議会がそれぞれ、同意を求めるべき対象に含めるよう意見書を可決した。「反対署名に多くの住民が賛同した」「事故の際に責任を負わざるを得ないだけに、議会と首長の同意なしの再稼働は許されない」と訴えている。これを無視してはなるまい。

 福島の事故を受け、避難計画の作成を義務付けられる市町村は原発から30キロ圏内へと拡大した。川内原発では9市町が該当する。

 被害を前提に避難計画を作るよう指示されながら、再稼働には物を言う権利がないとは不公平が過ぎはしないか。しかも病院や高齢者施設などの避難計画は不十分な内容にとどまっており、説明会では住民から懸念の声が相次いでいる。

 リスクばかりを押し付けられる周辺自治体の意見は、おのずと立地自治体の考えとは異なってくるだろう。鹿児島県は、少なくとも30キロ圏内にある自治体の同意が得られるまでは判断を下すべきではない。

 国としては、これ以上同意の対象が増え、再稼働が遅れるのは避けたいのだろう。新しく就任した宮沢洋一経済産業相が、再稼働の必要性を説明するために11月初旬の訪問を検討している。周辺も含めた地元の意見を幅広く聴くことこそ必要であろう。

 福島第1原発事故の現実を忘れないでほしい。「安全神話」はあっけなく崩れ、事故は起こり得ると分かった。放射性物質が広範囲に拡散し、除染もままならない。住民は避難を迫られたばかりか、多くは帰還のめどすら立っていない。

 ひとたび事故が起これば、立地も周辺も関係ない。事故を境に、原発の安全性が厳格に求められる社会となったはずではなかったか。

 電力会社が再稼働を予定する全国の原発立地の地域では、安全対策や防災の議論への参加を求める自治体が増えている。福島の事故を教訓にするなら、当然そうなろう。

 中国電力島根原発2号機でも原子力規制委員会の適合性審査が終われば、地元は再稼働の是非を問われる。島根県の溝口善兵衛知事は立地の松江市と県だけでなく、鳥取県内も含めた30キロ圏内の2県6市で合意形成していく姿勢を見せている。周辺自治体の首長や議会の意見に誠実に耳を傾ける手続きこそ、求められている。

(2014年10月29日朝刊掲載)

年別アーカイブ