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社説・コラム

社説 日朝協議 交渉 続けるしかないが

 日本人拉致被害者の再調査などをめぐり、政府代表団と北朝鮮の特別調査委員会幹部との平壌での協議が終わった。

 安倍晋三首相はきのう夜、拉致問題が最重要課題であるとの日本政府の立場を北朝鮮に提起したと記者団に説明。北朝鮮からは「過去の調査にとらわれず、新しい角度から調査を深めたい。特殊機関も徹底的に調べる」との返答があったことを明らかにした。

 今回の成果を早急に分析した上で、今後の交渉進展へつなげなければならない。

 安倍政権の拉致問題解決にかける決意を直接伝え、安易な幕引きは許されないという切迫感を北朝鮮に与えたことは評価できよう。

 北朝鮮の特別調査委員会の責任者がどのような人物で、どのような活動をしているのか、これまでは不明であった。今回徐大河(ソデハ)委員長と直接対話を実現したことは、今後の交渉にプラスに働くだろう。

 北朝鮮は、核・ミサイル開発をめぐり中国との関係が悪化し、後ろ盾を失いつつあるとされる。日本との関係を改善し、経済支援を得たいのだろう。ひいては2002年の日朝平壌宣言に基づき、国交を正常化したい思いもあろう。対日外交への意欲を確かめることができたことは大きい。

 しかしながら肝心の交渉の中身は詳細になっておらず、評価できる段階とまではいかない。

 拉致問題を「最重要」とする日本側に対し、北朝鮮側は終戦前後に現地で亡くなった日本人の遺骨問題を優先させ、調査の進展を強調したと報じられている。だとすれば、双方の思惑の違いが鮮明になったといえる。

 北朝鮮側が優先させたい日本人遺骨問題は、5月の日朝合意に明記されてはいる。とはいえ、日本側の優先度が高くないことは百も承知であろう。

 日本側に提供しやすい情報ばかりを成果としてアピールし、制裁緩和を引き出す狙いかもしれない。難題である拉致問題をあえて後回しにして日本側を揺さぶる作戦、との見方もある。

 情報を小出しにして交渉の主導権を握り、より多くの見返りを求めるのが北朝鮮の常とう手段である。これまでの交渉をみると既に北朝鮮主導との見方もある。これ以上、相手のペースに振り回されてはなるまい。

 拉致問題最優先を掲げる安倍政権にとって、交渉を急ぎたいのが本音でもあろう。ただ前のめりすぎては足元をみられる。あくまで慎重に交渉に向き合うことが求められる。

 重要なのは、今後の交渉に向け、体制や戦略をどう再構築するかだ。

 今回の政府代表団派遣をめぐり、拉致被害者の家族会や与野党の一部からは「北朝鮮に主導権を握られる」と異論が出ていた。対話を重視すべきか、北朝鮮に厳しい姿勢で臨むべきか、意見が分かれているのが現状であろう。

 政府は、今回の交渉の内容についてできる限り情報を公開し、幅広い国民のコンセンサスを得る努力をしてもらいたい。拉致問題は一大関心事である。安易な取引に応じることは許されない。

 拉致解決はオールジャパンの立場で解決するという姿勢を忘れず、今後に臨むべきだ。

(2014年10月31日朝刊掲載)

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