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連載・特集

廃炉の世紀 第1部 先進地欧州 <4> 低中レベル廃棄物(ドイツ) 

地層処分に賛否二分 多様なごみ…不安拭えず

 全ての放射性廃棄物を地下深く埋める方針を取るドイツ。使用済み燃料など高レベル放射性廃棄物に注目が集まりがちだが、廃炉では、原子炉解体などで出る大量の「低中レベル」のごみをいかに処分するかも大きな焦点となる。

 秒速6メートルで、ゴンドラが急降下していく。5分程度でたどり着いたのは、地下約千メートルの世界。迷路のように広がる坑道が、暗闇に浮かび上がっていた。ドイツ中部にあるコンラッド処分場。初めてドイツが法律で認めた放射性廃棄物の最終処分場だ。2020年代初頭に低中レベルの廃棄物を運び込めるように、急ピッチで整備が進んでいる。

 作業者も見学者も、万が一に備えて酸素ボンベを担ぎ、トラックで地下を移動する。コンラッドの鉱山跡で国が調査を始めたのは1976年。鉄鉱石の層とそれを覆う粘土層の構造が「地下水を通しにくい」と評価された。鉱山の立て坑と坑道を改造して使う。

 鉱山時代から働く広報のワイヤー・ベルントさん(58)は「処分場は長い時間かけて稼働する。息子世代も働ける」と雇用の場として期待する。

 計画では、奥行き約800メートル、高さ約6メートルの複数の横穴にトラックで廃棄物を入れた容器を納め、コンクリートを流し込んで閉じ込める。計画上の収容能力は約30万立方メートル。国内の全原発の廃棄物を運び込める。将来は完全に処分場ごと埋め戻す。

 核のごみを地下に埋めるのは安全か―。賛否は地域を二分してきた。国は82年、処分場計画を進めると申請。反対署名は30万人近くに上り、02年に州が許可した後も一部の自治体や農家が異議を申し立てた。建設が始まったのは07年。申請から25年が過ぎていた。

 「低中レベル」のごみの内容は幅広い。高い放射能を帯びた原子炉内の部品も低中レベルに含まれるだけに、住民の不安は拭えない。ベルントさんは「地上に漏れる可能性が永遠に0%とは言えない」としながら、こう続けた。「だが、30万年程度たてば放射性廃棄物はほぼ無害になる」

 22年までに全原発を閉鎖するドイツ。コンラッドが動かなければ、廃炉で出た廃棄物は敷地内で「中間貯蔵」され続けることになる。処分場計画を批判する政治家は減ったという。

 手続き上、計画を止める手段はもうない。地元の副村長で反対グループの幹部でもあるイエルク・ハンゲンベルクさん(69)は「それでも、まだ処分場が誕生していないことが重要だ」と引く気はない。地層処分以外の選択肢はあるか―。ハンゲンベルクさんは少し考えて言った。「核のごみの問題に解決策はない。だから立地地域だけでなく、社会全体で議論すべきだ」

低中レベル放射性廃棄物
 使用済み燃料やガラス固化体などの高レベル放射性廃棄物を除く放射性廃棄物を指す。廃炉で解体した原子炉などの放射性廃棄物が相当する。放射能レベルの高い炉内構造物から、レベルの低い解体コンクリートまで含まれる。浅い地中に埋めたり、地下数百メートルの安定した深い地層に埋めたりして処分する。

(2014年11月1日朝刊掲載)

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