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社説・コラム

天風録 「信念の言葉」

 隠れキリシタンの末裔(まつえい)という。確かに秘めた信念を貫いた人だろう。おととい亡くなった元長崎市長の本島等さん。しばしば物議を醸したが「相手を信じ、対話しよう」との姿勢が土台にあった▲昭和の最後に市議会での答弁が波紋を呼んだ。「天皇に戦争責任はあると思う」。よくぞ言ってくれたとの声もあった一方で、脅迫や嫌がらせが殺到する。ひるまなかったが、ついに銃口を向けられて凶弾が胸を貫く▲口を封じようとする卑劣な暴力にも発言は撤回しなかった。わが身を狙った犯人も「許す」と語ったという。何より憎んだのは、戦争だったに違いない。強いまなざしはやがて日本によるアジアへの加害責任にも向く▲その報いと考えたのだろう。退任後に「原爆投下は仕方なかった」と口にして広島・長崎の人たちを傷つけたことも。しかし核兵器をなくせという願いは変わらず、ことしも高齢をおして長崎の平和公園に座り込んだ▲攻撃的な言葉をぶつけるヘイトスピーチが横行したり、考えの違う相手を脅したり。言論をめぐる空気が危うい。暴力によらず対話でこそ健全な社会がつくられる―。本島さんが身をもって示した信念には賛否はないはずだ。

(2014年11月2日朝刊掲載)

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