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社説・コラム

社説 温室ガス削減 国際社会 危機感共有を

 国際社会にとって、厳しい警告にほかならない。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、地球温暖化の影響を避けるには、温室効果ガスの排出量を今世紀末にほぼゼロにする必要があるとの報告書を発表した。

 今後、京都議定書に代わる新たな国際的枠組みを議論する際の基礎データとなる。

 にわかには信じられないほどの切迫した内容だが、先送りすればするほど対応は難しくなろう。各国が危機感を共有し、スピーディーな行動へとつなげなければならない。

 今回の報告書は、これまでの作業部会ごとの報告を分野横断的にまとめた最終版である。いつ、どのような手を打つべきなのかを、より具体的に記したのが特徴である。

 例えば、人類に許される二酸化炭素(CO2)の排出量は残り1兆トンと、上限を初めて明示した。さらに温室効果ガスの排出量としては、2050年に10年比で40~70%削減する必要があるとも指摘した。

 京都議定書は、先進国全体で08~12年に1990年比5・2%減の目標を掲げた。それでも議論が紛糾した。今回の目標を野心的過ぎると突き放す向きもあるかもしれない。

 ただ報告書は「道筋は複数ある」ことも示している。火力発電所からCO2を回収して地中などに貯留する新技術の重要性をうたったほか、太陽光や風力などの低炭素エネルギーの割合を現在より3~4倍増やす必要があるとした。

 このままでは異常気象が頻発し、深刻な食糧危機に陥って国際紛争も起きかねない―。報告書が描く地球の近未来は、決して絵空事とは言い切れまい。

 ところが世界の温暖化対策はこのところ停滞が目立つ。二大排出国のうち米国は京都議定書の枠組みから離脱した。もう一つの中国にはそもそも削減義務が課されていない。

 先進国と新興国との意見対立は、過去の気候変動枠組み条約締約国会議(COP)の「付きもの」でもあった。

 ことし9月末の国連気候変動サミットで米国と中国が積極的に関与する姿勢を示し、ようやくの感が生まれたところだ。

 20年以降の新たな枠組みを決める来年のCOP21を控え、国際的な機運をさらに盛り上げたい―。それが今回の報告書の隠れた狙いといえよう。

 気になるのは、日本の対応の遅れだ。欧州連合(EU)が先月、30年までに90年比で温室効果ガスを40%削減する目標を発表したのに比べ、日本では目標策定の準備がやっと始まった。

 東京電力福島第1原発の事故後、原発などエネルギー政策の将来像が定まらないことが遅れの理由とされる。しかし、原発停止を言い訳に目標を先延ばしにしていいのだろうか。

 かつて原発は「低炭素エネルギー」として国策で推進されてきた。しかし、ひとたび事故が起きれば、人々の健康や地球環境に深刻なダメージをもたらす。原発に依存する根拠が大きく揺らいだ今、そこへの回帰はもはや考えられまい。

 再生可能エネルギーを軸にするしかないだろう。政府は、世界をリードする目標を掲げるべきだ。省エネや蓄電の技術開発も急がなければならない。

(2014年11月4日朝刊掲載)

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