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連載・特集

廃炉の世紀 第1部 先進地欧州 <7> 技術力(フランス)

施設解体 ビジネスに ノウハウ世界に広げる

 フランスの原子力発電の初期の歴史は、核兵器開発とともに歩んできた。いち早く軍事用の原子炉や再処理施設を解体した経験を生かして、「廃炉ビジネス」を広げようとしている。

 パリの南約600キロ。ブドウ畑に囲まれた約280ヘクタールに、核施設が集うマルクール原子力地区がある。厳しい警備で外部と隔たれたこの地に9月、原発の解体技術をPRする情報センターができた。同国の先進技術を、世界にアピールしようという施設だ。

 「世界の核施設にとって解体は不可欠なステップ。マルクールで培った知識を世界に広げる」。仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)のベルナール・ビゴ長官が式典で宣言すると、自治体や業界の関係者約300人が拍手で歓迎した。

 フランスの原子力開発の発祥の地とされるマルクール。センターを新設したのは、1956年に稼働し、解体を終えた軍事用プルトニウム生産炉「G1」の建屋跡。福島第1原発でも採用された除染システムなどが並ぶ会場で、輪切りにして飾られた巨大な炉心が記憶をとどめていた。

 いま解体が進むのは、プルトニウムを抽出していた国内初の再処理工場「UP1」。作業員がモニターを見ながら遠隔操作でロボットを操り、汚染された部品を切断していた。「構造が複雑で狭い場所でも、かなり柔軟に動かせる」と担当者。それでも、97年に停止したUP1が解体を終えるのは2040年ごろになる。ローレンス・ピケティ原子力施設廃止措置・解体本部長は「特に再処理工場は汚染度が高い場所が多く、液体状の廃棄物の扱いが難しい」と説明する。

 作業は、幅広い分野の複合技術だ。汚染エリアの測定、切断、放射性物質の飛散防止、搬出ルートの選定…。大半に遠隔操作が求められる。より安全な選択肢を組み合わせながら進めるノウハウを、フランスは経験で蓄積してきた。

 マルクール地区だけで解体費用は総額65億ユーロ(約9200億円)。CEAは国内で約20施設の解体を進め、毎年約6億ユーロ(約850億円)を投じる。ピケティ本部長は「常に予算削減のリスクがある」と認め、廃炉技術の輸出を急ぐ理由の一つをうかがわせた。

 従業員数5千人のマルクール地区は地域の雇用の要でもある。だが11年9月、地区内の施設で爆発事故があり作業員1人が死亡。警報が響き、周辺住民は一時パニック状態に陥った。

 ある地元議員はセンターの式典で「不安にさせる事故もあった」と振り返ったものの、「フランス発の技術を世界に輸出し、新しい共生の時代をつくろう」と前向きの姿勢を強調した。

 世界で確実に増えていく廃炉。フランスは兵器開発の「負の遺産」を強みに変えようとしている。

マルクール原子力地区
 フランス南部のローヌ川沿いに広がる核施設集積地。1950年代、核兵器開発の拠点として開発されたとされる。原発用のプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料の製造工場などもある。高速増殖炉の原型炉「フェニックス」(2010年閉鎖)の解体も近く、本格化する。

(2014年11月5日朝刊掲載)

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