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社説・コラム

社説 米中間選挙 協調外交の行方 危ぶむ

 米国の与党・民主党からすれば、かつてのオバマブームがうそのような惨敗だろう。米連邦議会の中間選挙は上院の議席の過半数を野党の共和党が奪い返し、8年ぶりに上下両院で多数派を占めることになった。

 オバマ大統領の6年間の政権運営に国民が厳しい審判を下したからにほかならない。高まる一方だった政権批判を最後まで拭い去れなかった。内政的には大きな焦点となった医療保険改革の混乱だけではない。景気回復が伝えられる半面、広がる格差への不満が投票行動に直結したとの見方もある。

 政権が求心力を失い、いわゆる「レームダック(死に体)」になるのは避けられまい。今後は共和党との間合いを計りながら、2016年の大統領選をにらんだ政治的な駆け引きが繰り返されることが予想されよう。

 今回の与党敗北の影響はまだ読み切れないが、日本との関係でいえば最大懸案である環太平洋連携協定(TPP)交渉の行方も当然、注視される。

 少なくともいえるのは国内世論の動向をこれまで以上に意識する「内向き志向」に陥りかねないことだ。そこで懸念されるのは就任以来、オバマ氏が看板としてきた国際協調外交が色あせてしまうことではないか。

 まずは中東情勢である。ただでさえシリア問題や過激派「イスラム国」への現政権の対応は選挙戦で共和党から「弱腰」と批判され、オバマ氏の弱点の一つとみなされたようだ。確かに米国は方針がふらつき、局面悪化への対応が後手後手に回ってきた感は否めない。

 しかし力の行使をできる限り抑制し、外交手段で事態を打開する基本姿勢は今後も貫くべきではないか。共和党はイスラエル寄りとされ、中東問題では強硬路線である。その圧力に押され、仮にオバマ氏が否定してきたイスラム国支配地域への地上部隊投入に安易に踏み切るようなことがあれば、情勢の泥沼化につながりかねない。

 心配はほかにもある。交渉期限が今月24日に迫ったイランとの核協議である。こちらも共和党にはイランに妥協すべきではないという声があり、合意に至ったとしても議会の協力が得られるかは不透明だからだ。

 こうした状況の下で、オバマ氏が曲がりなりにも掲げてきた「核なき世界」が一層、遠のくとすれば由々しきことである。

 公約していた包括的核実験禁止条約(CTBT)の上院批准は共和党が反対のため、現実的には残る任期中は困難になったとの見方がある。さらにはウクライナ問題をめぐるロシアとの対立のあおりで、もともと難航していた戦略核の削減交渉が推進力を欠く恐れがあろう。

 2期目の後半、政治力は衰えても歴史に名を残す「レガシー(遺産)」づくりに汗をかいてきた大統領は過去にもいる。オバマ氏に関しては、まさに核政策ではないのか。その熱意を失うようならノーベル平和賞など返上してもらいたい。

 超大国の内向き論理だけで世界を動かせる時代は既に終わっていよう。米国がこの9月に温室効果ガス削減に関して国際的枠組みへの協力をやっと表明したように、国際協調こそ世界の潮流のはずである。その点を、オバマ氏は共和党側にも粘り強く説いていく必要がある。

(2014年11月6日朝刊掲載)

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