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社説・コラム

社説 川内原発の再稼働 本当に「責任」持てるか

 国民の多くに抵抗感があるのは変わらない。にもかかわらず、原発が年明けにも再稼働する可能性が高くなった。

 九州電力川内原発1、2号機が立地する鹿児島県薩摩川内市の市長に続き、同県の伊藤祐一郎知事がきのう、再稼働に同意した。これで地元同意の手続きが完了したことになる。

 宮沢洋一経済産業相は先日、現地を訪れた。伊藤知事に対し、事故が起きた場合には「国が責任を持って対処すると約束する」と述べている。

 しかし東京電力福島第1原発の事故で、今なお大勢の住民が避難を余儀なくされている現実がある。「責任」を持つと言っても、うのみにはできない。

 川内原発の安全性をめぐっては、原子力規制委員会が新たな規制基準に基づき審査し、9月に「合格」を出していた。それがここにきて揺らいでいる。

 問題とされているのは、原発周辺にある火山が噴火するリスクだ。日本火山学会は今月、予知には限界があることを踏まえ、規制委の審査基準を見直すべきだとする提言を出した。

 これに対し、規制委の田中俊一委員長は「もっと早急に発信してくるべきだ」と批判した。新基準作りの際になぜ言わないのかとの思いもあろうが、その分野の専門家の指摘は重く受け止めなければならない。

 地元住民からすれば、それ以上に心配なのが、火山のリスクを含め原発事故が起きたときに安全に避難できるのかということだろう。

 福島の事故を踏まえ、規制委はおととし、事故時の住民避難計画の策定を義務付ける自治体の範囲を原発の半径10キロ圏から30キロ圏に広げた。川内原発の場合、鹿児島県以外に薩摩川内市など2市だったのが、県内の9市町に増えている。

 それらの避難計画の中身を見ると、地元自治体自らが認めているように、とても十分とは思えない。とりわけ問題視されるのは、病院の入院患者や老人ホームなど福祉施設の入所者の避難である。

 医療設備やスタッフが不可欠のため、避難先探しは容易ではない。その結果、半径10キロ圏外については、確保できていない。地元説明会でも不安の声が相次いだという。

 計画の内容は、規制委が審査する対象ではない。政府の原子力防災会議が9月、川内原発周辺の自治体の避難計画を「確認」したが、計画の実効性には懸念が拭えない。

 というのも、きちんと機能するかどうかは、何度も訓練などを通じて検証することが欠かせないからだ。北陸電力志賀原発(石川県)の事故を想定した先日の防災訓練では、天候次第では船で避難できない課題が浮き彫りになっている。

 地元自治体の避難計画が不十分なまま川内原発が再稼働するようなら、なし崩しと言わざるを得ない。少なくとも、政府は自治体任せにせず、計画に足りない部分を補うべきだろう。

 川内原発を優先してきた規制委は今後、他の原発の審査を本格化させる。次の候補には、関西電力高浜原発(福井県)などが挙がっている。

 政府は地元住民の安全にどう責任を持つのか。原発を再稼働させる前に、安倍晋三首相自らが説明すべきである。

(2014年11月8日朝刊掲載)

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