×

社説・コラム

社説 冷戦終結25年 「心の壁」こそ崩したい

 東西冷戦の象徴だったドイツの「ベルリンの壁」が崩壊してから、きょうで25年になる。

 以来、欧州ではドイツ統一に続き、多くの国が統一通貨ユーロを導入するなど、東西融和からさらに一歩進めて「脱国境」へと壮大な試みが続いてきた。

 欧州以外でもグローバル化が飛躍的に進んだ。人々の行き来は地球規模で盛んになった。異文化交流を通じて世界の市民は、違いを認め合う「共生」の意識を育んできたはずだった。

 ところが皮肉なことに、大国の重しが軽くなって多極化した世界はむしろ、不安定さを増している。地域紛争やテロがやまない。核拡散も進んだ。全面的か単発的かの違いこそあれ、この地球は核戦争の悪夢から逃れ切れないでいる。

 とりわけ東アジアでは隣国同士が不信感を強める。為政者にとどまらず国民がいがみ合う姿は、かつての米ソ間の冷たい戦争をほうふつとさせる。私たちはこのところ、心の内にある国境という壁を一段と高くしてはいないだろうか。

 このまま熱い戦争へと転じさせてはなるまい。

 そもそもベルリンの壁は、西側陣営の自由主義と東側の社会主義というイデオロギー対立の最前線だった。突き崩したのは東欧の民主化を求めた市民の声であり、行動だった。

 冷戦の終結は同時に、照準を失った核兵器との決別宣言になるはずでもあった。確かに米国とロシアの核軍縮は一定に進んだ。とはいえ、核を保有する国は逆に増え、核なき世界は全くもって見通せない。

 使えないはずなのに、権力の象徴とみなす。核を持ちたがる為政者の姿勢こそが最大の問題だろう。東アジアでは、地域の安定を模索する多国間対話の場が整っていないことも大きい。

 さらに世界が不安定化する根底にあるのは、格差や貧困の問題ではないだろうか。

 統一ドイツでは東西の格差が急速に縮まった。ところが欧州全体を含めて世界を見渡せば、国家間の格差が解消できないまま、多くの国が自国内の格差拡大に直面している。

 途上国では資源開発の利権を争って大国の思惑が入り乱れる。大国でも、富める者はますますお金を手にし、一方で貧困にあえぐ層が拡大する。グローバル化がもたらす負の側面にほかならない。社会の混乱に乗じて過激なテロも横行する。

 そのテロリスト集団に若者が志願して加わる。子どもが銃を持たされ、紛争最前線へと送られる地域もある。命が軽んじられる現実があまりに悲しい。

 人為的な国境に奪われた互いの信頼を取り戻そう―。ベルリンの壁につるはしを振るい、冷戦の終結へと導いた原点に、人々の熱い思いがあったことを忘れてはなるまい。

 国家間の相互不信を一掃するのは困難だ。だが、政府と市民の双方が平和を希求して行動することが第一歩となろう。

 核兵器廃絶に取り組みたい。まずは保有国が率先して自国の軍縮を無条件で進める。そうしない限り核拡散の連鎖は止められないと肝に銘じてほしい。

 私たち市民も、核なき世界を共通目標に据えよう。国境を超えて意識を一つにする営みは何よりも、内なる「壁」を崩すことにつながる。

(2014年11月9日朝刊掲載)

年別アーカイブ