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漫画「君がくれた太陽」 広島の強さ伝えたい

■記者 新田葉子

 人の営みのはかなさと、立ち上がる人の強さと-。戦前から被爆、そして復興の道をたどった広島が舞台の漫画「君がくれた太陽」が、講談社のコミック誌「BE・LOVE」で連載中だ。作者は松尾しよりさん。「広島の強さを伝えたい」と事前取材を重ねた作品は、同誌の中で独特の存在感を示している。

 30代前後の女性をターゲットに月2回発売する同誌は、20万部を発行。連載は5月に始まった。戦前から戦後の革屋町(現在の広島市中区本通)で、困難な時代にも互いを思い、支え合う恋人や家族を描く。

 過去の作品でも戦争を取り上げてきた松尾さん。普通の暮らしがあっけなく奪われてしまう無残さと、乗り越えていく人間の強さがモチーフ。そんな制作姿勢ゆえに、惨禍から立ち上がった広島はまさに特別な存在だった。

 愛知や大阪で育ち、東京で暮らす。「広島に縁のない自分が描いていいのか。不快に思われないか」と思い悩んだ。背中を押してくれたのが、取材で出会った広島の人々だった。

 戦前から続く洋品店を、今も本通り商店街で営む被爆二世の高田諭さん(44)もその一人。街は消え、祖父は命を落とした。「どんな形でもいいから、悲劇を誰かが伝えていってほしい」。手元に残る戦前の写真を示しながら語った。  「何もなくなった場所に店を再興したお父さん。その思いを引き継ごうとする責任感の強さに圧倒された」と松尾さん。「登場人物のモデルの一人なんです」と明かす。

 連載の初回は同誌の巻頭を飾った。「命や生きることを深く考えさせられた」「広島のみなが知る(デパートの)福屋が登場するなど、親しみがわく」など、読者の声も多く寄せられている。娯楽性が求められるコミック誌の中で、重いテーマの作品が評価されたことに、喜びと責任を感じる。作品は今秋まで連載。この夏、佳境を迎える。

(2008年6月18日朝刊掲載)

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