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社説・コラム

社説 日中首脳会談 緊張関係終わらせよう

 ようやく安倍晋三首相と中国の習近平国家主席が会談した。隣同士でありながら、トップの会談を開けない異常な状態が2年半も続いていた。

 尖閣諸島や歴史認識の問題をめぐり、時に感情的になる対立は深刻の度合いを深めている。1972年の国交正常化後では最悪といわれる。曲がりなりにも両首脳が歩み寄り、関係改善への一歩を踏み出したことは歓迎できる。

 経済の冷え込みは無視できない。アジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせた開催でもある。日中の緊張関係を終わらせるきっかけにしたい。

 会談では、尖閣諸島周辺での不測の事態を避ける枠組みづくりを始めることで一致した。尖閣諸島の周辺では、中国船が日本の領海への出入りを繰り返している。

 つまり、ちょっとした行き違いによって不測の事態が起こりかねない状態にある。対話の流れが出てきたのは評価したい。防衛当局間の危機管理メカニズムの構築に向けて、実務作業を急ぐべきだ。

 尖閣に関連して日本側は、「異なる見解」が存在することを認めた。しかし、そもそも尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本の領土であり、「領土問題は存在しない」との立場は何ら変わりはない。

 一方、会談に先立って発表された日中関係改善に関する文書の中身について、中国のメディアは「領有権問題と認めた」と主張し始めている。中国政府がこれから、国際社会に向けてそうした主張をしていく懸念は拭えない。

 中国側がこれまで通りの行動を続けるなら、合意した意味はなくなるだろう。挑発的な行為はやめて、冷静な話し合いへと移ってほしい。

 安倍首相は会談後、「戦略的互恵関係」の原点に立ち返ると強調した。2006年の第1次内閣時代に自ら打ち出した基本方針である。2国間で安全保障や外交、経済、環境などさまざまな分野で共通の利益を目指す考えだ。

 そうであるならば歴史認識の問題では慎重な対応が要るだろう。中国側は、会談を開く前提として、靖国神社を今後は参拝しないよう強く求めていた。

 習氏は会談前、安倍首相と握手をしながらも、表情は厳しいままだった。首相は村山談話を継承する意向は示したものの、参拝しないとの確約をしなかったもようで、不快感を表したとみられる。国内の世論が気になった面もあるだろう。

 会談では「歴史問題は13億人の中国人民の感情に関わる」とくぎを刺した。歴代の中国指導部にとって、対日政策は対応の難しい政治課題である。

 昨年末の安倍首相の参拝は関係を悪化させた。振り返るまでもなく、首相が参拝にこだわっていては改善の糸口はなかなか見えてこないのではないか。

 ひとまず会談で懸案を取り上げたとはいえ、薄氷の一歩である点は否めない。今回の会談は30分足らずであった。

 これから機会あるたびに本格的な首脳会談を継続し、まずは信頼関係を積み重ねていくことが必要だ。関係改善していくとの両首脳の宣言は、本物かどうか。問われるのはむしろ、これからである。

(2014年11月11日朝刊掲載)

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