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社説・コラム

現場発2014 ヨウ素剤配布 歓迎と不安 島根原発事故対策

島根県が年内に計画作成 服用時の通知など課題 粉末状 求める声も

 島根県が、中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の事故に備え、甲状腺被曝(ひばく)を防ぐ安定ヨウ素剤の配布計画を年内にまとめる。原発5キロ圏の住民約1万人への事前配布や、30キロ圏の小学校、保育所など災害弱者を抱える約700施設への備蓄が柱となる。安全確保に向け「一歩前進」と歓迎する声の一方、服用時の情報伝達や錠剤を服用できない3歳未満児への対応など課題も山積している。(樋口浩二)

 島根原発から約2・5キロの鹿島町古浦地区。青山賢治さん(69)は長男夫婦や孫たち7人で暮らす。年度内にも始まるヨウ素剤の配布に「安心感が増す。全員分受け取りたい」という。被曝の影響は幼いほど大きく、特に孫で小学4年の千紘さん(10)、保育園年長の颯介ちゃん(6)の「安全につながれば」と考える。

 ヨウ素剤は服用のタイミングが効用を左右する。原子力規制庁によると、被曝前24時間以内か被曝直後の服用で被曝量を9割抑える一方、被曝後16時間以降は効き目がない。青山さんは「県か市が飲むタイミングを正確に知らせてくれないと宝の持ち腐れになる」との不安も抱える。

 配布計画の作成に当たって県は、事故時に自力避難が難しい乳幼児や入院患者の安全確保を重視。原発5キロ圏の松江市民への事前配布に加え、事故に備える出雲、雲南、安来市を含む30キロ圏の保育所と幼稚園、小中高校、特別支援学校、病院など計707施設への備蓄を盛り込む。

 児童生徒の避難の場合、保護者への引き渡しに伴う混乱も懸念される。県小学校長会会長で城北小(松江市)の下前克己校長(59)は「学校医を緊急招集する仕組みや保護者の同意取り付けなど、円滑な服用態勢を整えたい」という。

調合に薬剤師必要

 配布計画の原案をまとめたのは、県が専門家や住民代表たち16人を集め、4月に設立した検討委員会(委員長・猪俣泰典島根大医学部付属病院教授)だ。議論の過程で意見が割れたのが、粉末タイプの保育所への備蓄。3歳未満の子どもは錠剤を飲み込むのが難しいため粉末タイプを服用する必要があるが、検討委は調合に薬剤師が欠かせないなどとし備蓄を見送った。

 「保護者がすぐ迎えに来られないことも十分あり得る。粉末タイプも配ってほしい」。原発から約2キロの恵曇(えとも)保育所の杠(ゆずりは)桂子所長(61)は求める。3歳未満児は27人で園児70人の約4割を占める。課題は服用方法だが「子どもの安全確保が一番。調合の仕方を指導してもらえば園でも対応できるかもしれない」と話す。

「相談態勢を築く」

 服用後の副作用も事前配布に向けたハードルとなる。1986年のチェルノブイリ原発事故で服用した3万4491人のうち、新生児の0・37%が甲状腺の機能低下、子どもの4・6%が嘔吐(おうと)や胃痛を発症したとの国の報告もある。対応策として県は、配布前に開く住民説明会で、事前に戸別配布した問診票を回収。各自の薬アレルギーなどを把握した上で配布に踏み切る考えだ。

 だが、県立中央病院(出雲市)放射線科の児玉光史部長(56)は「成分が似た薬は少なく、住民自身がアレルギーを判別するのは難しい」と指摘する。既に配布を始めた原発立地県の鹿児島、愛媛県も同様の課題に直面する。島根県健康福祉部の原仁史部長(59)は「医療機関に協力を要請し、不安を持つ住民が無料で相談できる態勢を築きたい」と話している。

安定ヨウ素剤
 安全なヨウ素をあらかじめ体内に取り込むことで、放射性ヨウ素の吸入を抑える医薬品。3歳以上は直径約5ミリの錠剤で、12歳までは1回1錠、13歳以上は2錠を服用する。3歳未満の子どもには粉末を水に溶かしスポイトなどで与える。国は医師の処方を原則とする一方、緊急時は薬剤師と自治体職員の配布も認める。

(2014年11月13日朝刊掲載)

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