×

社説・コラム

社説 温暖化対策で米中合意 実効性をどう担保する

 掛け声の一方で前に進まない地球規模の温暖化対策に、本格的な道筋が付くのだろうか。

 オバマ米大統領と中国の習近平国家主席が、北京での首脳会談で温室効果ガスの大幅削減に合意した。お互い相当に踏み込んだ新目標を出し合ってのことだ。米中の協調ぶりを一定に演出する狙いもあろう。

 排出量で世界1位の中国は気温や水面の上昇など深刻さを増す影響に背を向け、経済発展を優先してきたのは否めない。2位の米国にしても京都議定書の枠組みを早々に離脱し、国際社会の足を引っ張ってきた。

 二つの国を合わせて世界の排出量の4割を超す。合意内容が実現するとすれば大きなインパクトを持つのは確かである。

 しかし、それも両国が実効性を担保しての話だろう。

 米国の新目標は野心的といえる。従来は2020年までに05年と比べて17%程度の温室効果ガスを削減する、としてきた。今度は目標年は25年にずらしたが、26~28%分を減らすのだという。技術力が高く、さらなる削減の余地が小さい先進国の目安からすれば、かなりの努力が必要な数字に違いない。

 ただ政治状況を考えると楽観できまい。与党民主党は今月の中間選挙で共和党に大敗を喫したばかり。経済成長を阻害するとして温暖化対策に消極的な共和党から早速、この中身への反対論が出ている。中国との協調路線に批判もあるようだ。

 このため議会の協力が必要な新たな施策ではなく、大統領の権限で可能な火力発電所の排出規制などに頼らざるを得ない。どこまで削減に踏み込めるか。

 中国はどうだろう。習氏が表明した「30年ごろをピークに減少に転じさせる」との方針は生ぬるくも映る。だがこれまで国内総生産(GDP)当たりの削減目標を示すにとどまり、経済成長すれば排出量が増える計算だった。やっと先進国並みの総量削減を口にした意味は重い。

 そこでは大国の自覚というよりは国内事情が透けて見える。成長が停滞気味で、工業生産も頭打ちに近い。さらには大気汚染の深刻化を受け、石炭など化石燃料の比率を落とさざるを得ないのだろう。

 とはいえ新興国の意向を代弁してきた中国のスタンスの転換は国際交渉の風向きを変えることにつながるはずだ。温暖化対策の新たな枠組み作りを前に、年末にはペルーで気候変動枠組み条約の第20回締結国会議(COP20)がある。成長ありきで総量削減には応じないインドなどに影響するかもしれない。

 異常気象のほか食料危機や紛争の多発―。目の前に示された未来への警鐘に対し、世界が動きだしつつある。新たな削減目標を打ち出せないのは先進7カ国で日本とカナダだけであり、周回遅れになりかねない。

 エネルギー政策の行方をにらみ、停滞してきた国内の議論はむろん急ぎたい。一方で温暖化対策における日中協力をもっと考えるべきではないか。

 お家芸の省エネ技術の供与だけではない。いま中国では原発の増設を加速する方針もあるが、風力発電や太陽光発電などの拡大も叫ばれている。こうした隣国の需要を黙って見ている手はない。手を携えて再生可能エネルギー普及に力を尽くしていく視点も必要だろう。

(2014年11月14日朝刊掲載)

年別アーカイブ