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社説・コラム

『潮流』 風評・風化と闘う現場

■論説副主幹・佐田尾信作

 旅先の福島県猪苗代町で、ど派手な軽ワゴン車に遭遇した。ボディー全体がパステルカラー。奈良の大仏や会津の赤べこなどをイラストにして描き、「あそぶべー」と文字を入れる。

 奈良県の生協が福島県の生協連に、この車を贈ったことにちなんだデザインである。この地域に「子ども保養」の拠点があり、県有林を生かした「プレーパーク」の整備が進んでいる。「プレーカー」と呼ぶ車は遊具を満載し、冬を越せば広大な遊び場を駆け巡る。

 子ども保養は福島原発事故を機に始まった取り組みだ。被災地域の子どもや保護者を対象に、週末や長期の休みの間、県内外の放射線量の低い地域で心身のストレスを癒やしてもらう。生協連などは自らのプロジェクトを「コヨット(来よっと)」と命名している。

 事故から3年8カ月が過ぎ、こうした取り組みにも逆風は吹く。生協連の佐藤一夫専務理事は「子ども保養は風評被害を助長しないか、という声があるのは事実です」と明かす。子どもたちは今も被曝(ひばく)し続けていると公言しているようなものだ、という批判である。

 母親が子育ての悩みなどを口にしにくい空気も広がっているという。例えば避難先から帰ってきた家族がいるとする。佐藤さんは「子どもは友達と早くなじめても、お母さんは『ママ友』と疎遠になったままふさぎ込む」と顔を曇らせる。避難しなかった家庭との溝を埋められないことが、少なからずあろう。

 福島は風評と闘うのに懸命だ。福島市内でJAのコメの全袋検査場も見たが、市の担当職員から「安全な農産物を出荷していることを広く知らせてください」と念を押された。メディアなどが伝えていないとすれば風化との闘いでもある。

 あらためて誰にでもできる支援があると思った。福島を忘れないことだろう。常にそこから考えたい。

(2014年11月15日朝刊掲載)

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