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社説・コラム

[施行迫る特定秘密保護法] 海自いじめ自殺訴訟の弁護団長・岡田尚さん(69) 

情報隠しがさらに横行

 機密情報の保護を目的とし、情報漏えいに対する罰則強化を盛り込んだ特定秘密保護法が12月10日施行される。同法をめぐっては、秘密の範囲があいまいで、国民の「知る権利」を侵害する恐れがあるとして廃止を求める声が今なお根強い。一方で、適切な運用を求める声もある。施行を前に各分野の専門家に意見を聞く。

 裁判を通じて浮き彫りになったのは、都合の悪い情報は隠蔽(いんぺい)する国の本能、体質だった。特定秘密保護法が施行されれば、さらなる情報隠しが横行する。

 横浜弁護士会所属で、いじめを苦に自殺した護衛艦「たちかぜ」の1等海士の遺族が起こした訴訟の弁護団長。乗組員に暴行の実態を聞いたアンケートの原本について海自は「破棄した」としていたが、東京高裁で審理中だった2012年、3等海佐の内部告発で文書が存在することが判明。高裁はことし4月、いじめと自殺の因果関係を認め、国などに約7300万円の支払いを命じた。

 内部告発がなければ真相は闇のままだった。海自は、このアンケートを基にした乗組員の答申書や供述調書は「公開すれば防衛活動に支障が生じる恐れがある」として「防衛秘密情報」にしていた。ところが、開示された文書を見ると秘密に当たるようなものではなかった。「何が秘密なのかも秘密」で、その秘密の指定がいかにいいかげんなものなのかが分かった。法が施行されれば情報隠しは進むだろう。だが、摘発に至るケースは多くないと思う。むしろ罰則を強化することで、自主規制を図るのが狙いだろう。

 3等海佐は「公務員が本当に尽くす相手は国民」として告発に踏み切ったが、怖さもあったと思う。施行されたら、同じような告発行為は難しくなるだろう。情報所有者もマスコミも両方が脅かされることになる。この法は傷だらけ、穴だらけ。より良くしていけば問題が治癒する類いのものではない。廃止しかない。(聞き手は胡子洋)

(2014年11月15日朝刊掲載)

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