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社説・コラム

社説 衆院解散へ 増税延期 大義にならぬ

 安倍晋三首相の説明には首をかしげざるを得ない。来年10月に予定していた消費税の再増税を1年半先送りし、衆院を21日に解散すると表明した。

 首相はきのうの会見で「デフレ脱却のチャンスを手放すわけにはいかない」と強調した。増税延期と、安倍政権が進めてきた経済政策アベノミクスの是非を国民に問いたいと語った。

 もともと消費税増税法には、経済状況によって増税を停止できる「景気条項」が盛り込まれており、政権の判断で先送りは可能である。それでも首相は「国民生活に大きな影響を与える政策変更は選挙で信を問うべきだ」との考えを示した。

 だが増税延期については、景気の失速を踏まえれば仕方ないと受け止める国民が多かろう。野党もそろって容認する姿勢を見せている。争点にはならず、解散の大義名分とはいえない。真っ先に問われるのは、増税の先送りを余儀なくしたアベノミクスの「中間決算」である。

 首相は金融緩和、財政出動、成長戦略という「三本の矢」について、「確実に成果を挙げつつある」と語った。とりわけ重要な経済指標として雇用と賃金を挙げ、それぞれ改善していると胸を張った。

財政再建遠のく

 しかし有効求人倍率などの改善は、非正規雇用が中心との指摘は根強い。賃上げについても広がりに欠ける。物価が上昇した分、実質賃金は下がっているという人も多かろう。

 そのため、個人消費が低迷している。おととい発表された7~9月の国内総生産(GDP)も、市場が予想した数値を大幅に下回り、2四半期連続のマイナスだった。

 こうした状況を打開するためとして、首相は地域経済を活性化させる「地方創生」を掲げたはずだ。それなのに今臨時国会で成立を目指している関連法案の中身は乏しい。

 増税を先送りする上で最も懸念されるのは、先進国で最悪の水準にある財政の再建が遠のくことである。今月、計5回あった有識者による景気点検会合でも、予定通り再増税するべきだという意見が多かった。

 それらの指摘を受け、首相は消費税増税法の景気条項を撤廃し、1年半先送りした後には必ず増税する方針を示した。ただ、そのときに景気が回復しているという保証はない。

思惑先行なのか

 さらに、見過ごしてはならないのは、自民、民主、公明の3党が2年前、消費税引き上げについて合意したときの「約束」が全く守られていないことだ。社会保障を充実させるとともに、議員自らが身を切る改革として、定数削減を含めた抜本的な選挙制度改革を進めると誓ったのではなかったか。

 そもそも衆院議員の任期がまだ2年残っている今、首相が解散に踏み切るのは、長期政権を目指したいという政治的な思惑があるからにほかなるまい。

 最近の世論調査では、消費税の再増税について反対する意見が賛成を大幅に上回っていた。こうした世論の中で増税先送りを打ち出して総選挙をすれば、与党が再び安定多数を確保できると踏んだのではないか。

 9月の内閣改造後、閣僚2人が政治とカネの問題で辞任したことも首相の判断に影響を与えているだろう。問題は他の閣僚にも波及している。選挙を経ることで局面を変える狙いがあると思われる。

 首相が解散することなく政権運営を続けても、安全保障法制の整備や原発の再稼働といった国民の反発が根強い問題が待ち受けていた。今のうちに解散した方が得策という読みもあるに違いない。

政権の2年問う

 まだ衆院議員の任期が半分残っている状況で解散は必要ないとの見方もある。ただ安倍政権は国の在り方を大きく変える政策決定をしてきた。その象徴が、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認である。

 国民が判断すべきは、アベノミクスの是非だけではない。この2年間の政権運営そのものであることを忘れてはなるまい。

(2014年11月19日朝刊掲載)

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