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社説・コラム

社説 北朝鮮非難決議 人道の罪 安保理議論を

 北朝鮮の包囲網がかなり狭まったといっていい。

 国連総会の第3委員会が、日本人拉致問題など北朝鮮の人権侵害を非難する決議案を賛成多数で採択した。

 この種の決議は10年連続である。ただ今回は、戦争犯罪などを裁く国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう国連安全保障理事会に初めて促すなど、これまで以上に厳しい内容だ。

 拉致問題が国際司法の場で取り上げられる可能性を示している。その意義は小さくない。

 決議案は日本や欧州連合(EU)が主導し、賛成111、反対19、棄権55で採択された。

 ポイントは、北朝鮮による拉致や政治犯に対する拷問などを「人道に対する罪」とし、「国家の最高レベルの関与」があったと明記した点である。加えてICCへの提起を促したことにより、金正恩(キムジョンウン)第1書記の責任が問われる可能性も出てきた。

 提案国が過去最多の62カ国となったことも国際世論の高まりを物語っていよう。背景にはことし2月、国連がまとめた北朝鮮の人権問題に関する報告書がある。日本人の拉致や国内での政治犯たちへの拷問などの残虐行為が詳細に示された。

 今後は安保理で正式な議題として取り上げられるかどうかが焦点となる。それには安保理メンバー15カ国のうち9カ国の賛成が必要とされる。この構成国のうち今回、決議案に賛成したのはちょうど9カ国だった。

 とはいえ中国やロシアは拒否権を行使する恐れがあり、実際にICCへ付託されるのは難しいとの見方がある。

 中国やロシアはそれぞれ、国内で人権問題を抱えているためだ。安保理で個別国の人権状況を討議することになれば、いずれ自国に火の粉が降りかかる。そうした事態を嫌う両国の姿勢はなかなか変わりそうにない。

 しかし国連憲章は、国際社会に共通する普遍的な価値として人権の重要性を高らかにうたっている。国家権力による拉致や拷問を放置できるはずがない。中ロも含めた安保理は足並みをそろえ、北朝鮮の人権問題をしっかりと議論し、繰り返し改善を迫ってもらいたい。

 見過ごせないのは、北朝鮮が今回の決議案採択をけん制しようと、さらなる核実験の実施を示唆したことだ。

 国際的な圧力に対抗して危険な挑発に出る瀬戸際戦術は、北朝鮮の常とう手段である。2013年2月には安保理の制裁強化決議に反発し、実際に3度目の核実験を強行した。

 さらなる暴挙が国際的な孤立をいっそう深め、自滅を招くことは明らかだ。金第1書記は頭を冷やすべきだ。

 日本の対応も問われる。政府は、北朝鮮による拉致被害者らの安否再調査の開始を受けて経済制裁を一部解除するなど、やや融和的な姿勢に転じていた。

 ところが今回は、はかどらぬ再調査に業を煮やした日本政府が対決姿勢を強めたと、北朝鮮側が受け取る可能性がある。それが功を奏するかは不明だが、拉致問題については今後とも迅速かつ粘り強く、働きかけていくしかないのだろう。

 政府は関係国の理解と協力を得る努力を続けてほしい。同時に、核・ミサイル問題も含めてどう事態打開を図るか。その戦略も求められている。

(2014年11月20日朝刊掲載)

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