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社説・コラム

『潮流』 レームダック?

■論説委員・東海右佐衛門直柄

 決断できない男、やる気がない評論家―。中間選挙で与党民主党が敗北した後、オバマ米大統領への批判がやまない。

 「核なき世界」を目指すとして世界中を熱狂させた姿が目に焼き付いているだけに隔世の感もある。今後、政権はレームダック(死に体)化が進み、政治は停滞するのであろうか。

 実は、ある重要なテーマで進展を起こせる。米議会が承認しなくても、世界を動かせる。核兵器の警戒態勢を解除することだ。

 広島市内で先日、米国の科学者らでつくる「憂慮する科学者同盟」のグレゴリー・カラキー上級アナリストの講演を聞き、その思いを強くした。

 米国とロシアの間には、いつでもすぐに発射できる核弾頭が約2千発もあるという。事故や偶発的な使用のリスクが高まる。それでも常に核ボタンを押せる状態で米ロはにらみ合う。

 絵空事ではない。1995年1月、米国がノルウェー沖からオーロラ観測用のロケットを発射した際、ロシアは自国への核ミサイル攻撃と誤認。核兵器で反撃する一歩手前までいったとされる。

 「エリツィンがいつものように酔っていたら核戦争だった」。そんなブラックジョークも残る。

 警戒態勢を解くとは、指令から数分あれば発射できる臨戦状態をやめることである。廃絶への道のりからすれば、取るに足らぬステップにすぎないとの意見はあろう。だが、核兵器で脅し合う愚を見直す意味は大きい。米国がイニシアチブを取り、ロシアなどにも同調を促せばよい。

 最近、オバマ氏は移民制度改革で大統領令を出し、強い政治的意志を見せた。

 ならば次はノーベル平和賞受賞者として恥ずかしくない行動を見せてほしい。残りの任期2年。やり遂げなければ賞を返上するくらいの気概を期待したい。

(2014年11月22日朝刊掲載)

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