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社説・コラム

『書評』 普天間移設 日米の深層 琉球新報「日米廻り舞台」取材班著 

時代遅れの抑止論覆す

 普天間飛行場の固定化か、辺野古新基地か―。

 沖縄の米軍基地について、県民に二者択一を迫る図式が往々にしてある。だが、この地元紙による集中連載は、それを根底から覆す現実を浮き彫りにしたのではないか。日米安全保障に深く関わる米国側の元高官や専門家たちの言説を体系立てて、説得力がある。

 例えば元国防次官補ジョセフ・ナイは辺野古新基地について、公の席でこう語る。「もし県民が計画を受け入れ、移設がうまくいくのならいい。だが普天間問題で同盟を壊していいかといえば、答えはノーだ」。普天間の県外移設は同盟の危機につながる―と、日本側で喧伝(けんでん)されてきたこととは大きな隔たりがある。

 またスタンフォード大のダニエル・スナイダーは「抑止力のシグナルを送る場所が沖縄だけである理由はない」と取材に答えた。横須賀などの海軍基地へ巡航ミサイル潜水艦を、三沢などの空軍基地へF22戦闘機やF35戦闘機を配備すれば、日本国内で抑止力を高めることはできるという。

 沖縄の海兵隊縮小は抑止力の上で問題ない―という見方だ。再編した場合、残るのは2千人ほどの遠征部隊である。これで新たな基地が必要だろうか。スナイダーは「50年前と同じ議論をしている」と断言し、政治家のリーダーシップがないだけだ、とも言う。

 民主党代表鳩山由紀夫(当時)の「最低でも県外」という公約が「官僚の壁」に阻まれて挫折した舞台裏も、本書は明かす。やはりそうなのか、とあらためて思わざるを得ない。

 もう一つ、沖縄の経済は基地に依存している、という見方も時代遅れであることが分かる。基地跡地の生産誘発額は返還前の200倍以上に上るという。評者も訪ねたことがある「那覇新都心」は、約200ヘクタールの土地が1987年に返還された。今は高層ビルや商業施設が集中し、かつての軍用地の面影はまるでない。

 基地問題と地域振興を、はかりに掛ける議論は終わった。今回の知事選の審判がその証しではないか。(佐田尾信作・論説副主幹)

青灯社・1512円

(2014年11月23日朝刊掲載)

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