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社説・コラム

天風録 「CMに踊らされない」

 ことしは新語・流行語大賞候補の50語にCM育ちの言葉が一つも見当たらない。昨年、予備校CMから大はやりした<今でしょ!>も業界では約20年ぶりの大賞と聞く。隔世の感がある▲バブル景気となる1980年代は入賞の常連。85年は<私はコレで会社をやめました>、翌年も<亭主元気で留守がいい>と続く。「失われた10年」を挟んで90年代は勢いが衰え、代わって政治家やスポーツ選手の言葉がもてはやされるようになる▲広告の力が落ちたのではなく、受け手の側が踊らなくなったのかもしれない。雑誌「広告批評」の編集長を長く務め、昨年他界した天野祐吉さんが勧めていた。親子一緒にCMをまねた後、「『バカみたい』とつぶやいてみせる芝居っ気が大事」と▲時ならぬ総選挙は、ちょっとした宣伝合戦の趣である。超の付く短期決戦となった事情もあるのだろう。連日、それぞれの政党がキャッチコピーを並べ立てている。人心をつかむ術にたけた広告の力も借りているはず▲天野さんがいつか、斜に構える訳を明かしていた。「戦争中の『欲しがりません、勝つまでは』にぼくはだまされた側の一人である」。欺かれた経験は有権者も積んでいる。

(2014年11月27日朝刊掲載)

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